有名なおとぎ話『美女と野獣』を、幻想的な映像美を得意とするフランスの鬼才クリストフ・ガンズが実写化。だが、ガンズは誰もが知る『美女と野獣』ではなく、“美女と野獣の原点”と呼ばれる小説の描かれてこなかった部分に注目。誰も知らない『美女と野獣』の物語が幕を開ける!

アニメーション、映画、ミュージカル、絵本、小説と、これまで色々と表現方法を変えながら、多くの人に愛されてきたおとぎ話『美女と野獣』。その輝かしい同作の歴史に、クリストフ・ガンズ監督による『美女と野獣』が加わることとなった。今回の実写版は、270年以上も前にフランスで生まれたヴィルヌーヴ夫人の物語をベースに、セット、小道具、キャラクターの性格等、“リアル”にこだわりぬき、幅広い世代から支持される作品に。日本では興収11億円を記録した。

裕福だった商人の父が破産し、田舎暮らしを与儀なくされたベル一家。だが、ベル以外の姉2人と兄3人は、贅沢三昧の都会暮らしを忘れられず、不満を募らせていた。そんなある日、道に迷った父が古城にたどり着き、バラを一輪折ったことから、自身の命で償えと野獣から要求されてしまう。それを知ったベルは、父の代わりに古城へ行き、野獣と暮らすことになるのだが…。誰もが知る、お馴染みのストーリーラインは存在するものの、これまで取り上げられてこなかったエピソードに焦点を当てた実写版『美女と野獣』は、これまでのイメージを一新させる。

この物語のキーパーソンの1人は、間違いなく野獣だ。しかし、これまで野獣について多く語られることはなかった。人を愛し、人から愛されるようにと、その程度だろう。そして、忘れてはならないのが、野獣の立ち位置である。そう、野獣はプリンセスの引き立て役であり、あくまでも主役はベル。だが、今度の野獣は、ベルの美しさを際立たせつつも、物語の1つの軸として重要なカギを握っている。なんと野獣は、あまりにむごく、悲しい過去を抱えていたのだ。ゆえに、野獣になっても苦しみから逃れられず、その風貌から人を信用もできずと、心はすさむいっぽう。なぜ幸せの絶頂期で王子は野獣へと姿を変えてしまったのか。真実を知ったとき、打ちのめされると同時に、人間の愚かな部分に思うところは多いだろう。

「時代に左右されない魅力を持ち、モダンでありながらクラシカル、ナチュラルでいながら洗練されているレアは(ベル役に)理想的だった」と、ガンズ監督が絶賛する若手女優レア・セドゥ。彼女であったからこそ、ヴァンサン・カッセル扮する野獣の強烈な個性に負けるどころか堂々と渡り歩き、芯の強い女性を体現できたと言えるだろう。

そんな好奇心旺盛で勇敢なベルを演じたレアは、2006年に女優デビューし、2008年の映画『美しいひと』でセザール賞 有望新人女優賞にノミネート。翌年、2009年にはクエンティン・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』でハリウッドへと進出するや、『ロビンフッド』『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』等に出演と、着実にキャリアを積んできた。そして、2013年に『アデル、ブルーは熱い色』でカンヌ国際映画祭パルム・ドールに輝いたのを機に大ブレイク。『007』シリーズ最新作『スペクター』のボンドガールにも抜てきされるなど、今後の活躍は間違いなしの注目女優だ。

ゲーム『サイレントヒル』を幻想的な映像で実写化し、高い評価を博したクリストフ・ガンズ監督。その手腕は『美女と野獣』のなかでも存分に発揮されている。まず驚かされるのが、19世紀初頭と思われるフランスの喧騒だろう。短いシーンながらも、当時の雰囲気を知るには十分。そこから一転して、野獣が暮らす森の奥の古城へ。この城は、ポルトガルのアヌエル様式にしたがって作られたとのことだが、その様式に詳しくなくとも、圧倒的な贅と美は感じられる。細かなところまで注視してほしい。

また、もう1つの美は衣装である。“エレガントで息をのむように素晴らしい”が絶対条件だった衣装ゆえ、レースや刺しゅう、ラインストーンなど、驚くほどの手の込みよう。そして、そんな衣装に雰囲気を与えるのが、アクセサリーや部屋の装飾なのだが、特筆すべきは光だ。明るすぎず暗すぎず、計算され尽くした光が用いられることによって、映像はより幻想的に。この細部まで練り込まれた“美”は、ブルーレイやDVDでこそ堪能できる。より深く物語が味わえるはずだ。