そんなせつない思いを抱いて生きる人々に、静かに寄り添う映画が生まれた。名匠・諏訪敦彦監督が18年ぶりに母国・日本でメガホンを取った最新作『風の電話』。“天国につながる電話”として、東日本大震災以降、3万人を超える人々が訪れている電話ボックス<風の電話>をモチーフにした、初の映像作品である。

主人公・ハルを演じるのは、『おいしい家族』『ブラック校則』などで希有な個性を発揮する女優のモトーラ世理奈。傷ついた心を抱えながら、故郷・大槌町へと向かうさすらいの少女を見事に演じきり、西島秀俊、三浦友和、西田敏行ら日本を代表する名優たちがその熱演を優しく包み込む。現場の空気感までも切り取るドキュメンタリーのような肌触り…。諏訪監督ならではの演出によって、共に旅をしたような唯一無二の映画体験が、観る人の人生にそっと刻まれる。

主演・モトーラ世理奈×
諏訪敦彦監督インタビュー

オーディションでモトーラ世理奈と出会った瞬間、「この人がハルだ!」と直感したという諏訪敦彦監督。彼女の中に流れる独特な“時間”は、本作のヒロイン・ハルと完全にリンクし、広島から大槌町へ、日本中をさすらう姿となってスクリーンに映し出される。ハルを演じるのではなく“ハルを生きた”モトーラと、彼女を介して“本物”のハルと出会った諏訪監督。他者には理解できない感覚の中で、深く共鳴し合った2人が、改めて撮影を振り返る。

西島秀俊インタビュー

1997年、俳優として試行錯誤していた西島秀俊は、同じく自身の演出スタイルを模索していた諏訪敦彦監督と出会い、共に苦悩しながら映画『2/デュオ』を世に送り出した。あれから22年、日本のトップ俳優に成長した西島は、即興演出という独自の手法を確立した諏訪監督と本作で再会。久々の諏訪組で感じた新たな葛藤とは?

三浦友和インタビュー

1999年製作の諏訪敦彦監督作品『M/OTHER』で主演を務めた三浦友和。本作で20年ぶりにタッグを組んだ諏訪監督について、「即興芝居をやっているようで、実は監督の構想に包み込まれている」と感嘆する。劇中、主人公ハルに対して「食え!」というセリフを連発する三浦。脚本にはなかったアドリブを引き出した諏訪監督のマジックとは?

西田敏行インタビュー

劇中、西田敏行演じる今田が、今も苦しむ故郷・福島への思いを激白するシーンが登場するが、「役を超えた自分語りだった」と認めるほど、その言葉は観る人の胸に突き刺さる。諏訪敦彦監督が出した唯一のリクエストは、歌を1曲歌うこと。それ以外は、全て西田の思いに委ねられたという名場面を撮影秘話と共に述懐する。

諏訪敦彦監督インタビュー

“ロードムービー”という手法で、本作に挑んだ諏訪敦彦監督。さすらいの旅をしながら、様々な人と出会い、最終的に主人公・ハルは、故郷・大槌町に帰っていく…。この物語を通して諏訪監督が本当に伝えたかったものとは?主演のモトーラをはじめ、西島秀俊、三浦友和、西田敏行ら出演者への感謝と共に、本作への思いを語る。
STORY

17歳の女子高校生ハル(モトーラ世理奈)は、東日本大震災で家族を失い、広島に住む心優しい伯母・広子(渡辺真起子)の家に身を寄せながらひっそりと暮らしていた。

だがある日、広子が突然倒れ、入院することに。またしても一人ぼっちになった不安から、ハルはそのまま家に帰らず、目的もないまま、さすらいの旅に出る。

あてもない旅の道中、彼女の目にはどんな景色が映っていくのだろうか…。

憔悴して道端に倒れていたところを助けてくれた公平(三浦友和)、今も福島に暮らし被災した時の話を聞かせてくれた今田(西田敏行)。様々な人と出会い、食事をふるまわれ、抱きしめられ、「生きろ」と励まされるハル。なかでも、福島の元原発作業員・森尾(西島秀俊)との出会いは、彼女の心に大きな変化をもたらし、まるで導かれるように故郷・大槌町にある<風の電話>へと歩みを進める。

天国へ行った家族と「もう一度、話したい」その想いを胸に…。

取材・文 坂田正樹