今秋、鬼才J.J.エイブラムスが手がけた「FRINGE/フリンジ」「パーソン・オブ・インタレスト」「ALCATRAZ / アルカトラズ」の3つの最強海外TVドラマが、10月3日の「フリンジ」を筆頭に、ワーナー・ホーム・ビデオから連続リリースされる。鬼才ならではの“仕掛け”を作品に織り交ぜ視聴者をくぎ付けにする最強海外ドラマの見どころはもちろんのこと、今やハリウッドを代表するヒットメーカーとなったエイブラムスが、いかにしてキャリアを積んでいったのか――その軌跡を振り返ることで、彼独自の“面白さ”を浮き彫りにし、プライベートも覗いていきたい。(文:安保有紀子)
今回、最強海外ドラマとして紹介する「FRINGE/フリンジ」「パーソン・オブ・インタレスト」「ALCATRAZ / アルカトラズ」のすべてに“制作総指揮”として手腕を発揮する、J.J.エイブラムスとは一体どういう人物なのだろうか。
小さいころから映画製作に興味を持ち、作曲という仕事で、16歳で初めてハリウッド映画にかかわったJ.J.エイブラムス。しばらくはジェフリー・エイブラムスの名で、ハリソン・フォード主演の映画「心の旅」やメル・ギブソン主演の映画「フォーエヴァー・ヤング/時を越えた告白」などの脚本を担当し、「私に近い6人の他人」では役者にも挑戦と、活動の幅を広げていた。ハリウッドの実力者いわく、「心の旅」の時点でエイブラムスに目をつけていたそうだが、いかんせん実績が少なかった。
そんな彼の最大の転機は1998年の大ヒット映画「アルマゲドン」に脚本で参加した同年、製作総指揮、監督、脚本、音楽の4役を担当したエイブラムス初のテレビドラマ「フェリシティの青春」がスタートし、フォース・シーズンまでロングランしたことだ。それにより、エイブラムスは“面白いものを作る人物”とテレビ業界で名を上げ、番組制作会社“バッド・ロボット・プロダクション”を設立。以降、「エイリアス」「LOST」といった世界中に熱狂的ファンを持つテレビドラマを世に送り出し、映画業界でも「ミッション:インポッシブル3」「クローバーフィールド / HAKAISHA」「スター・トレック」等、ヒット作を連発、ハリウッドを代表する敏腕プロデューサーとして名を馳せるようになった。
とはいえ、彼が敏腕と称されるのは、ヒットする作品を生み出しているからだけではない。監督、脚本、音楽、プロデュース等、製作現場のあらゆる部分に参加できる才能があることに加え、慣習にとらわれない、ユニークなマーケティングに拠るところも大きいのだ。例えば、断片的な情報を小出しにすることで、観客の好奇心を刺激した「クローバーフィールド」、コアファンだけを集めて開催した「スター・トレック」のスニークプレミア、徹底的な秘密主義を貫き、観客の関心をぐっと高めた「SUPER8/スーパーエイト」など、話題に尽きることがない。また、自身の作品に出演した役者を、まったくタイプの違うキャラクターで別の作品に起用し、役者をブレイクさせることでも知られている。こういった様々な要因から、エイブラムスは敏腕かつカリスマ的存在のプロデューサーとしてハリウッドのトップに君臨しているのである。
エイブラムスの作品や宣伝手法などは、常に全世界注目の的だが、意外なことに、あまり知られていないのが彼のプライベートだ。というのも、妻のケイティー・マグラスとの間には息子2人と娘1人がいるのは事実だが、彼らが表に出てくるわけでもなく、ゴシップ欄とは無縁の生活を送っているから。そして、もう1つ明らかにされているのが、エイブラムスは民主党の支持者だということ。これは、大手PR会社の重役の娘として育ったケイティーが、かつてエドワード・ケネディ上院議員のために働いたことがあるほどの民主党支持者であり、その影響が大きいのだ。また、政治に関心を寄せたことで国際問題への関心も高まり、外交対策の専門家に話を聞いたりしているとのこと。エンタテインメントだけでなく、様々なことに関心を持つ。それこそが、エイブラムスが敏腕と言われる所以なのかもしれない。