池田純矢映画レビュー

◆ 第3回目のレビュー作品は…

気が付けばもう冬の装いも本格化し、窓には霜が降り、乾いた風が骨身にしみる今日この頃。この時期になると年の瀬を迎える為に、日々の仕事の他にも煩わしい喧騒に追われながら過ごす方も多いのではないでしょうか。

そんな時こそ、ふと一息。ゆったりと落ち着く時間と共に映画と過ごす、そんな何でもないひと時が明日への気力を養ってくれるのかも知れません。

こんにちは、池田純矢です。

このムビログ!も第3回となり、ようやく連載らしくなってきました。毎度の事ながら、今回はどんな作品を紹介しよう、あんなのがいいかな?こんなのがいいかな?と思いを巡らせる瞬間は、まるでプレゼントを選ぶためにショッピングモールを練り歩く時のような、浮き足立つ優しい気持ちに包まれます。プレゼントってきっと、貰う側よりも、あげる側に心の奥行きを与えてくれるのですね。。

◆ 懐かしの洋画をご紹介

さて。前回、前々回と邦画作品が続いたので、今回は洋画作品をば紹介させて頂ければと。この作品、僕が始めて出会ったのは14年前…日本で公開された直後、当時ではあまり無い程の速さでレンタルビデオになった頃でした。

 第3回レビュー作品 
コリン・ファレル主演
『フォーン・ブース』


フォーン・ブース

電源を切れば、殺される!

全米No.1ヒットに輝くリアルタイム=ノン・ストップ・サスペンス!!

すべてはニューヨーク・ブロードウェイの電話ボックスから始まった。警察、マスコミ、妻、そして愛人まで登場する中、スチュの選んだ結末とは?そして、犯人は一体何者なのか─?

今でこそ“世界の美しい顔100”にも数えられるコリン・ファレルですが、その当時はまだアイルランド訛りの強い新人俳優…と言う認識だった彼が、一躍スターダムに躍り出るきっかけとなった作品。本編時間が81分と言う疾走感溢れる短時間に加え、その短時間さえも忘れ去るようなスピードと急展開でめまぐるしく変わって行くストーリー。

ニューヨークの街を背に、口八丁で荒波を渡るパブリシスト・スチュ(コリン・ファレル)は、傲慢で嘘をつく事にも何とも思わないリアリスト。ある日、新進女優のパメラ(ケイティ・ホームズ)を口説く為、妻との結婚指輪を外し8番街のフォーンブースに入るスチュ。すると、その公衆電話に突然鳴り響くコール音。思わず対応してしまうと、受話器からは「置いたら殺す」と言う一言とともに、いつのまにかスチュの胸元にはライフルのポインタが…。

◆ 今でこそよくある手法となったワンシチュエーションの先駆け

この作品、やはり注目すべきは本編中ほとんどの時間が主人公の篭る電話ボックスを中心に描かれるワンシチュエーションであると言う事。いわゆるコメディ作品などではよくとられる手法ではあるが、ことサスペンス、ミステリ作品においてのここまでの徹底したワンシチュエーションは当時、ほかに類を見ない作品であっただろうと記憶している。

しかもそれが、四方数十センチ程の電話ボックスの中で繰り広げられるのだから秀逸と言う他ない。更に、ほぼ声だけの出演である電話口の向こう側にいる謎の男が、あのキーファー・サザーランドが演じている事も特筆すべき点である。

その声色、醸し出す微妙な空気の振動や、心の浮き沈みを、こうも見事に声だけで演じて見せるのか!と言う所に、トップスターの底力を見たように思う。自分自身、脚本を書く人間でもあるからこそ思う所でもあるが、そもそも約80分に物語を纏めるなどと言う事は究極至難の技である。

一から登場キャラクターの人となりを見せ、物語の成り立ちを説明し、事件と出会い、転換し、思わぬ落とし穴に落とされた後、結末へ導く。これだけの事をするのに、とても2時間では足りず、しかしその2時間におさめる為に何処を削るのか、何を省くかと四苦八苦する机上…。それを、何の想い残しもなく80分に纏め上げる脚本、監督、見事に応えてみせた俳優陣に最大限の敬意と拍手を送りたい。そしてそれを一人でも多くの人に伝えたいと思わせてくれる稀有な作品だったと断言したい。

往年の大ヒット作でも無く、新進の注目作でもないこの作品を敢えてこそ今皆様に紹介できた事を、その環境を与えてくれたこの場に只々嬉しく思います。今年も残り僅か…人生に於いてきっとそれ程必要な事ではない、しかし至上の潤いのような“映画”と言う娯楽を、皆様と共に楽しめる、そんな何でもないひと時を幸せに思います。それでは、また次回まで。


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  • 『フォーン・ブース』

    制作年:2003年/本編時間:81分
    HD(高画質):300円(税別)/48時間
    スマホはSD(標準画質)になります。

池田純矢プロフィール

2006年JUNONスーパーボーイコンテストで史上最年少準グランプリを獲得し、ドラマ『わたしたちの教科書』、映画『DIVE!!』で俳優デビュー。その後『海賊戦隊ゴーカイジャー』や『牙狼〈GARO〉~闇を照らす者~』などで見られるアクションにも定評がある。近年は舞台での活躍も増え、「ミュージカル『薄桜鬼』~藤堂平助篇~」『リチャード3世』等では座長を務めた。また企画・構成・脚本・演出を手掛ける「エン*ゲキ」シリーズを立ち上げ、『エン*ゲキ#01 君との距離は100億光年』を上演。 2017年に第2弾となる『エン*ゲキ#02 スター☆ピープルズ!!』を24歳にして紀伊國屋ホールで上演。 本格的な演出家デビューを飾る。 2018年4月に紀伊國屋ホール、5月に大阪ABCホールにて第3弾『エン*ゲキ#03 ザ・池田屋!』を上演予定。