「LOST」や「FRINGE/フリンジ」「ミッション:インポッシブル/ゴーストプロトコロル」など数多くのヒット作を手がけ、ハリウッドを代表するヒットメーカーとなったJ.J.エイブラムスが製作総指揮を務めたドラマ「ALCATRAZ / アルカトラズ」。同作は、1963年のアルカトラズ刑務所からこつぜんと姿を消した囚人たちが、当時の姿のまま突然現代に現れたという謎を全編に渡って追う壮大なミステリーでありながら、事件を繰り返す囚人逮捕という1話完結のクライム・サスペンスの要素も併せ持つ贅沢な作品だ。その面白さや魅力を、アルカトラズ島の歴史を振り返りつつ見ていきたい。(文:安保有希子)
サンフランシスコ市から2.4kmのところに浮かぶアルカトラズ島。この島は1775年に発見されて以降、ゴールドラッシュ時には灯台設置の場所として、南北戦争時には軍事用の刑務所や要塞として使われてきたが、最も印象強いのが、1934年から1963年までアメリカで最も凶悪な犯罪者を収容する施設として機能していた、刑務所としてのアルカトラズ島だろう。島の周囲は早い潮が流れ、さらに水温は平均13度と、脱獄不可能との看板どおり、アルカトラズ島は刑務所としては最高の立地と言える。だが、運営費用の高騰が原因で閉鎖。1973年からは国立公園として一般に公開され始め、現在もフィッシャーマンズワーフから出発するフェリーに乗れば、誰でもアルカトラズ島を散策することができる。また、サンフランシスコの至るところからアルカトラズ島は見えるもの
ショーン・コネリーとニコラス・ケイジ共演のアクション映画「ザ・ロック」、実話を基に制作されたクリント・イーストウッド主演の「アルカトラズからの脱出」、こちらも実話を基にしているが、弁護士と囚人の友情がメインに描かれた社会派ドラマ「告発」など、アルカトラズ島を舞台にした映画は、これまで多く作られてきた。これらの作品は、どれもジャンルはバラバラだが、脱獄不可能という立地を生かした物語になっており、アルカトラズ島自体がもう1つの主役といえる。これは、J.J.エイブラムスが製作総指揮のドラマ「ALCATRAZ / アルカトラズ」も同様だ。しかし、「ALCATRAZ / アルカトラズ」は、50年前の凶悪犯が現代に蘇ってくるという謎を軸に、過去と現在が複雑にリンクしていく。つまり、過去のアルカトラズと現在のアルカトラズという、2つの時代が楽しめる物語になっているのだ。この点がほかのアルカトラズ関連作品と大きく違い、1度で2度オイシイのが「ALCATRAZ / アルカトラズ」なのである。
1963年、アルカトラズ刑務所からこつ然と姿を消した302名の囚人が、当時と変わらない姿で現代に現れて再び犯罪を繰り返す。なぜ彼らは突然姿を消し、再び現れたのか。さらに、彼らが歳を取っていないのはなぜなのか――。 その謎を追うのが、1963年当時、サンフランシスコ市警の若い警官として、全囚人と看守が消えた直後のアルカトラズ島を発見したエマーソン・ハウザーだ。現在、彼はFBIエージェントを名乗るも、職員リストにハウザーの名は見当たらず、何者なのかハッキリしないどころか、人を簡単に信用したり、心を開いたりもしないため、何かを知っていそうでも周囲に語ることはなく、ハウザーの手の内はなかなか明らかになってこない。つまり、アルカトラズだけでなく、ハウザー自身も謎だらけなのだ。 そんな彼の部下となってアルカトラズの謎を追うのが、サンフランシスコ市警の女性刑事レベッカ・マドセンである。彼女は、ある殺害現場に残されていた指紋がアルカトラズに収容されていた囚人のものだったことから、囚人失踪の謎に関わり始めたのだが、実は、両親の死後、親代わりとして育ててくれたレイ・アーチャーはアルカトラズの元看守で、さらに彼だけでなく、レベッカの祖父トミー・マドセンも元看守と、彼女がアルカトラズの謎を追うことになったのは本当に偶然だったのか……そのような状況下、彼女は祖父の本当の姿を知り、驚愕することとなる。 そして、レベッカを常にサポートし、支えているのが、アルカトラズ研究の第一人者、ドクター・ディエゴ・ソトだ。レベッカによって謎の解明に巻き込まれただけに、死体を見て気持ち悪くなったり、感情が乱れたりと、素人ゆえの反応を示すが、囚人に関する知識はズバ抜けており、また、過去の自分が事件に巻き込まれた経験が捜査解決に役立つどころか、被害者の心の傷を癒したりと、チームにおけるその存在は日に日に大きくなっていく。このメインキャラクター3人以外にも、1960年代当時にアルカトラズ刑務所の所長を務めていたエドウィン・ジェームズと副所長のE・B・ティラーも、謎を増幅させる存在として物語に頻繁に登場する。脇役だが注目しておきたい2人だ。
今作の基本スタイルは、1話ごとに現れる1人の囚人を、ディエゴの知識を生かして逮捕するという、書いてしまえばシンプルなものである。だがそこに、なぜ過去の人間が当時のままの年齢で姿を現したのかという謎が加わることで、単純な犯人逮捕ドラマとは違う壮大なミステリーに仕上がっている。そして、そのミステリー要素を盛り上げているのが、囚人の存在。というのも、脇役であるのに、囚人の逮捕前と逮捕後をフラッシュバックで丁寧に描くことで、凶悪犯を単なる悪ではなく、1人の人間としてきちんと個性を持たせているから。つまり、彼らはそこまでする必要がある、重要なキーパーソンということだ。エピソードを重ねるごとに蘇った囚人は増えてくるだけに、個性という伏線が楽しみの1つと言えよう。また、囚人を逮捕すると、それが何を意味するのか分からなくても、何かしらの情報が得られる。それ単体ではパズルの破片に過ぎずとも、回を重ねるごとにぼんやりと全体像が見えてくる。まさに、エイブラムスの代表作「LOST」をほうふつとさせる、謎が謎を呼ぶ、謎だらけの物語なのである。もちろん、見始めたら止まらない点も同じだ。
過去のアルカトラズを舞台にした作品と一線を画す、海外ドラマ「ALCATRAZ / アルカトラズ」。リリース直前に開催された特別試写会では、過去のアルカトラズ作品との違いや、作品の魅力、さらには今後注目していきたい人物を調査!来場者の多くが「ハマってしまった」と感想を残した理由とは?