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映画『星の教室』キービジュアル

日本映画界の伝説・角川春樹、最後の総監督作品『星の教室』。半世紀にわたり角川映画に託してきた想いの集大成の魅力に迫る

11月6日(金)
全国公開

今年は角川映画の第一弾『犬神家の一族』(76年)が公開されてから50年の年に当たり、「角川映画50周年」の記念イヤーに当たる。その同じ年に公開される角川春樹の総監督作品『星の教室』は、まさに映画人・角川春樹の集大成と言える作品だ。

劇中に込められた言葉

「明日を諦めない。
人生を手放さない。」

1時間目角川春樹とは何者だったのか

1942年に生まれた角川春樹は、父・角川源義が創業した角川書店に入社し、書籍の編集者となった。そして、71年に日本公開された純愛映画『ある愛の詩』(70年)の原作小説を角川文庫で翻訳出版し、これを大ヒットさせる。この成功体験をきっかけに、角川春樹は、自社の小説を映画化して、売り上げを促進するというアイデアを思いつく。

角川は東宝、東映、ATG(日本アートシアター・ギルド)といった映画会社に共同製作を持ち掛け、紆余曲折あって初プロデュース作品となった『犬神家の一族』が大ヒットを遂げ、「角川映画の時代」が幕を開けた。

角川作品・代表作年表

  1. 1976年『犬神家の一族』
  2. 1977年『人間の証明』
  3. 1978年『野性の証明』
  4. 1980年『復活の日』
  5. 1981年『セーラー服と機関銃』
  6. 1982年『蒲田行進曲』
  7. 1983年『探偵物語』
  8. 1983年『時をかける少女』
  9. 1983年『里見八犬伝』
  10. 1984年『Wの悲劇』
  11. 1988年『ぼくらの七日間戦争』
  12. 1990年『天と地と』
  13. 2005年『男たちの大和/YAMATO』
  14. 2026年『星の教室』

2時間目日本映画界を覆した角川映画の功績

角川映画は、停滞していた当時の日本映画界において、それまでのセオリーを覆すような手法によって、数々の金字塔を打ち立てていく。

自社の製作映画によって、その作品の原作者を一躍ベストセラー作家に押し上げる――『犬神家の一族』の横溝正史、『人間の証明』の森村誠一、『セーラー服と機関銃』の赤川次郎、『ぼくらの七日間戦争』の宗田理など――。近年では、『星の教室』の高田郁も、角川春樹によって育てられた作家だと言っていいだろう。

また、新人発掘オーディションを行い、角川映画に主演させることによって、スターとして育て上げる――薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子、野村宏伸――。

宣伝面では映画と文芸のメディアミックスを行い、さらにテレビCMやラジオ番組など他媒体も活用し、映画と原作小説の両方を大衆への周知を徹底させる。今回の『星の教室』でも、街の書店では「映画公開記念キャンペーン」としてムビチケや映画のポスターのプレゼントが告知され、書店系のSNSでもその画像と共に公開を盛り上げる投稿が数多くなされている。まさに、昭和から続く角川映画のメソッドが未だに健在である。

3時間目『星の教室』へと受け継がれる角川映画のDNA

さて、『星の教室』は中学校でいじめられたことにより不登校になってしまった主人公の潤間さやか(桜田ひより)が、「もう一度勉強したい」という志を抱いて夜間中学に入り、様々な年代、性別、国籍の級友たちと切磋琢磨していく、という物語だ。角川春樹が何故高田郁によるこの原作小説を映画化したいと思ったのかと言うと、実は角川自身の極めてパーソナルな体験と問題意識から出発しているのだ。

角川春樹は過去にも自作に個人的な思いを込めたことがある。監督第二作『愛情物語』(84年)では、原田知世演じるプロのダンサーを夢見る少女に、若くして自死してしまった自分の妹を投影した。知世を優しく見守る渡瀬恒彦演じる「あしながおじさん」の目線は、角川監督の目線と同一だ。劇中の渡瀬も妹を失くした設定であり、その回想シーンでは彼の心の声として「自分のことしか考えてなくて 何んにもしてやれなかった」という字幕スーパーが表示されるが、これは完全に角川春樹自身の悔恨の思いである。

そして、監督第5作となる『REX 恐竜物語』(93年)で安達祐実が演じた少女も、キャリアウーマンである母親(大竹しのぶ)との親子関係の心の溝が原因で、不登校になった。この設定も、『星の教室』の主人公・さやかとの共通項がある。

角川はかつて、仕事仲間である松任谷由実から、「角川さんの女性が主人公の作品は、女性の魂が入ってくる」と言われたことがあり、角川はこれを「妹(いも)の力」と表現する。これは柳田國男の民俗学で使われた言葉で、「いも」は妹だけではなく、母、娘、恋人、など、広く女性一般を指している。そして、潤間さやかを桜田ひよりが演じる『星の教室』も、「妹の力」が宿った作品となった。

5時間目反戦と共生への変わらぬまなざし

角川は『星の教室』の作品テーマとして「生きることは学ぶこと、一番大きな学びは人との出会い」と語る。

過去に『野性の証明』(78年)、『復活の日』(80年)、『天と地と』(90年)、『男たちの大和/YAMATO』(2005年)と、数々の超大作を手掛けてきた角川春樹は、最新作では、「学び」という身近で普遍的であり、かつ現代的なテーマを選んだのだ。

また『星の教室』の主人公はさやかだけではない。中尾ミエ、浅野温子、山本學、小林虎之介といった個性豊かな俳優たちが演じる、何らかの理由で一般の学校に行けず、同じ夜間中学で学ぶ様々な世代の老若男女も、それぞれの人間ドラマが描かれている。この作品は、若者だけではなく大人の成長物語でもあり、学ぶことを通して人生を取り戻す人々の姿を描いた作品なのだ。

そしてもう一つ見逃せないのが、「戦争」や「差別」など社会問題に対する表現やアプローチだ。『星の教室』は2001年を時代背景にしており、劇中にさやかが「9・11テロ」をニュース映像で目撃するシーンがある。また、山本學が演じる夜間中学の生徒・遠見は沖縄出身で先の大戦によって人生を狂わされ、そこから回復できない。同じくクラスメイトの李正子ハルモニ(中尾ミエ)と山西蕗子(浅野温子)は、心ない民族差別に抗いつつ、明るく前向きに学んでいる。

角川春樹は『人間の証明』や『男たちの大和/YAMATO』などの過去作でも、明確に反戦の意志を表明し続けてきた。そして集大成となる本作でも、その思いは変わらない。角川は、「戦争や差別の問題は未だに継続している。それについては今回もしっかり主張しました」と語る。

しかし、『星の教室』の登場人物たちは、厳しい人生を送りながらも、常に前を向くようになっていく。それについて実際の夜間中学の取材にも行ったという角川は、「人は大なり小なり、みんな傷を持っているんです。ところが(夜間中学の生徒たちは)みんな、明るくなっている。なぜ明るいかというと、友人や夜間中学の同級生――同じように、様々な傷を背負った人たちが、一堂に会してという形で、授業を受ける。そういう事が、あの人たちの人生を大きく変えたんです」と力強く語る。

6時間目泣かせに頼らない角川映画の流儀

また『星の教室』に好感が持てるのは、「感動させてやろう」「泣かせてやろう」という意図が見え見えのあざとい演出やしらけたセリフがない点だ。過去を省みれば、角川春樹の監督デビュー作『汚れた英雄』はウエットな人間ドラマを完全に排除し、淡々と、ドライにバイクレーサーの生き様を描いていた。本作では総監督となった角川春樹の今も変わらないそのポリシーを汲み取って、監督の中川龍太郎、脚本の松井香奈ともに、抑制された表現を心掛け、さりげない感動を見る者に与えてくれる。

さらに本作では、浅野温子(『スローなブギにしてくれ』、『汚れた英雄』)、仙道敦子(『湯殿山麓呪い村』、『早春物語』)という、角川映画から育っていったベテラン女優たちが見せる渾身の演技も絶品だ。

7時間目背水の陣で挑み続けた半世紀の到達点

さて、『星の教室』は角川春樹の「最後の総監督作品」と銘打たれているものの、角川は過去に何度も「これが最後」「これで引退」という宣言を繰り返してきた。ただこれは別に「やめるやめる詐欺」というわけではなく、角川春樹は一作一作を「背水の陣」のつもりで真剣勝負し続けてきたという意味に他ならない。

一作一作に背水の陣で臨んできたその歩みを振り返れば、『星の教室』はまさに角川春樹の集大成と呼ぶにふさわしい。原作者の発掘と育成、「妹の力」を宿したヒロインと、角川映画が育てた俳優陣の起用、メディアミックスによる宣伝、そして個人的な思いと反戦の意志――半世紀にわたって角川映画が築き上げてきたもののすべてが、この一作に注ぎ込まれている。角川映画50周年の節目に届けられるその集大成が、観た人たちにどのように受け止められるのか、公開後の反響に注目したい。

ライター:山本俊輔

映画『星の教室』動画

映画『星の教室』予告

映画『星の教室』ビジュアル

映画『星の教室』は
11月6日(金)全国公開。

【作品情報】

原作:髙田郁「星の教室」(角川春樹事務所刊)
総監督:角川春樹 監督:中川龍太郎 脚本:松井香奈 角川春樹
出演:桜田ひより/仙道敦子 萩原聖人/小林虎之介 三戸なつめ 甲本雅裕 おいでやす小田/原田泰造 真木よう子 小泉孝太郎/中尾ミエ 浅野温子/山本學
配給:NAKACHIKA PICTURES/フライフリーエンターテイメント
制作プロダクション:楽映舎