「普通の女の子の普通の暮らし」を描いた朝ドラ『ひよっこ』の大胆な試み

NHK連続テレビ小説『ひよっこ』クランクアップで涙を見せた有村架純

NHK連続テレビ小説『ひよっこ』クランクアップで涙を見せた有村架純 クランクイン!

 今年4月から半年間、全156話の放送を終えた朝ドラ『ひよっこ』。「朝ドラヒットの法則」として、「女性の一代記モノ」「戦争など困難を乗り越えていくこと」などがよく挙げられるなか、『ひよっこ』が描いた時代は、1964年から68年までのたった4年間。しかも、特に大きな出来事が起こらないスローな展開ぶり…。それでも『ひよっこ』は多くの視聴者の心を幸せで満たし、愛されて最終回を迎えた。

続きを読む »

 序盤は、家族でご飯を食べること、おしゃべりすること、風の音や土の匂い、日の光に包まれることなど、日々の小さな幸せや、日常風景だけで心地よさを覚える不思議な作品だった。あまりにスローで何も起こらない展開だっただけに、マスコミでも「低視聴率」という話題ばかりが取り上げられた。その一方で、初期から「好きな人はすごく好き」で、観ている人の評判は良い。ただ、その良さはどんどん蓄積されていき、浸透していくものであり、序盤に言語化することはすごく難しい作品でもあった。

 そんな世界観において、ただひとつ異質だったのは、唯一のドラマチックな事件「父の失踪・記憶喪失」だ。作品全体を通して、あらすじだけ追うと、「父の失踪→ヒロインの上京と成長→家族再生」の物語に見えるし、「田舎の女の子が上京し、都会でも新たな家族・共同体を構築していく」物語にも見える。そうしたキーワードだけ並べると、「朝ドラらしい」物語かもしれない。でも、『ひよっこ』の場合は、そうしたわかりやすいキーワードが重要なわけではなく、「崩壊と再生」や「生産・構築」が主題なわけでもない。

 ヒロイン・みね子の親友・時子が後に女優になる夢をかなえたり、「売れない漫画家」が漫画家として成功していったり、「夢を実現すること」も描かれているが、それもやっぱり主題じゃない。おまけに、ヒロインは「何も成し遂げない人」であり、「何者にもならない人」だ。それも、「○○のお母さん」「○○の奥さん」を主人公とした、実在のモデルがいるこれまでの多くの朝ドラのように、「誰かに尽くす人・支える人・育てた人」でもない。 華々しい成功も、何も起こらない日々も、一人一人の喜び・幸せが等価値で描かれている。

 逆に、「父が失踪し、記憶喪失で見つかる」ことは、非常に悲しく不幸な出来事に見えるが、それだけが「特別」なわけではない。大小の差こそあれ、誰もが苦しみや悩みを抱え、乗り越えていっている。その思いもまた、等価値で描かれているのだ。

 『ひよっこ』のすごいところは、平凡な女の子を描いた、ほのぼの穏やかで温かな作品に見えて、実はものすごく大胆で、挑戦的な試みであること。日々の何気ない一コマからも、それを痛感させられることが多数ある。例えば、食事シーンの前に子どもが座布団を丁寧に並べる仕草、親子で会話をしながらゴボウのささがきをする仕草、あかね荘で誰かが登場したときに椅子の上に置かれたカバンをさっとどかして場所をあける仕草など。「日常の何気ない風景」の中に、誰かが誰かのことを思いやる仕草が、無数に散りばめられている。

誕生日

もっとみる

PAGE TOP