井上芳雄が語るミュージカル映画『シラノ』、「世界のすべてが詰まっている」
提供:東宝東和
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“ミュージカル界のプリンス”井上芳雄も映画『シラノ』を絶賛!
1897年のフランスでの初演以来、世界各国で幾度となく上演、ミュージカル化、映画化された『シラノ・ド・ベルジュラック』。時を超えて人々の心を動かす不朽の名作が新たな設定で再構築され、スクリーンへやってくる。主人公は文武両道ながらも、自身の外見に自信が持てないシラノ。儚くも美しい三角関係を、壮大なスケールで描く。今回は、昨年デビュー20周年を迎え、高い歌唱力と表現力でファンを魅了し続けている“ミュージカル界のプリンス”井上芳雄が、作品の魅力を熱く語ってくれた。
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自身の外見にコンプレックスを抱え、愛するロクサーヌに想いを伝えられないシラノ。そんなロクサーヌが恋をしたのは、シラノの隊に配属されたクリスチャンだった…。彼にまったく文才がないことを知ったシラノは、ロクサーヌ宛の手紙を代筆することを提案する。いつの時代も色褪せない、切ない三角関係を描いた本作。舞台となる17世紀フランスを再現した映像美も見どころだ。
シラノとクリスチャンは「二人で完璧な一人」
―まずは、作品をご覧になった後の率直な感想を教えてください。
実は、これまで舞台版でも映画版でも『シラノ』は観たことがなかったんです。今回の映画で初めて観て、思っていた以上に魅力的なストーリーで、普遍的な物語のおもしろさがあるな、と思いました。ピーター・ディンクレイジは素晴らしい役者ですし、彼が主演で、しかもミュージカル『シラノ』をやるというニュースだけでもすごく楽しみにしていました。
―シラノを演じたピーター・ディンクレイジとロクサーヌを演じたヘイリー・ベネットの二人はオリジナルの舞台版でも同役で共演しています。二人の演技・掛け合いはいかがでしたか?
舞台版のものが映画化されることはよくありますが、キャストは変わる場合が多いんですよね。今回は舞台版を観て惚れ込んだ末の映画化だと思うので、二人が共演する意味は大きいと思います。お互いの信頼もそうですし、何よりもキャラクターにすごく合っていると感じました。
お互いの呼吸が舞台から続いて、映画版を演じることでさらに深まったということもあると思います。セリフのやり取りだけではなく、動作や触れ合い…ちょっとしたことで僕たちはたくさんの情報を二人から得られますよね。ひとつひとつの動作が意味深だし、正解を提示するわけではなくて、こちらに想像する余地を与える芝居。素敵でした。 -
―親友のロクサーヌに恋心を抱きながらも、彼女が恋した相手クリスチャンとの仲をとりもつことになるシラノ。儚くも美しい純愛の三角関係が描かれていますが、三人の関係性についてはどう感じましたか?
シラノとクリスチャンが“二人一緒になると完璧な一人”になる、というところが悲しくも印象的でしたね。お互いに求めているものが違って、その求めているものが相手にあって、それをお互いに感じている。実際に完璧な人間はいないということでしょうし、シラノだけがかわいそうとか、クリスチャンが哀れというわけでなく、二人が一緒にならないとロクサーヌが求める男になれない、というところに発見や驚きがありました。
「こんな僕だから愛してもらえないはずだ」という考えも、果たしてそうなんだろうか?と、その解釈も投げかけられましたね。僕たちも、自分で勝手に足かせをして「自分はこんなだからこれ以上は言っちゃダメだ」とか「これ以上は望めない」といろいろ言い訳をして生きていると思いますが、それを改めて突きつけられました。 -
“当時”と“現代”のバランスが絶妙
―劇中特に印象に残ったシーンを教えてください。
ミュージカル化する素敵なところは、本当の会話では出てこない本心や、心の声が歌になって、それを観ている人にだけ教えてくれるところだと思うんです。ロクサーヌが一人で街中を歩きながら本心を爆発させる、普段は出せない気持ちが爆発するシーンはすごく素敵でした。三人三様に自分の気持ちを同時に歌っているシーンもありましたが、それも印象的でしたね。手紙や言葉や詩が重要な作品なので、ミュージカル化が合っている作品だと思います。詩を送ること自体が歌を歌うこととほとんど同じですし、言葉の力を改めて感じました。
―本作は、舞台となる17世紀フランスを再現した映像美も見どころですが、いかがでしたか?
イタリアで撮影が行われたということで、美しいし、“本物”の奥行きがあるし、すごく説得力がありますよね。衣装は忠実に歴史を再現するというよりは、現代風にアレンジされた要素も取り入れていて素敵でした。振り付けも、いわゆるその時代のワルツのようなものだけではなくて、現代的で印象的な振りがついていましたし、音楽も、ミュージカルにしてはポップス寄りだったのがおもしろかったです。
ロケでは当時を再現しつつ、そこで行われていることや歌われていることは現代味もある。難しいのはバランスというか、センスだと思うのですが、調合具合が絶妙でした。良い意味でどっちともつかずに、物語を運ぶための要素になっていたところが素敵でしたね。―確かに、映画が始まった瞬間に違う場所に行っているような感覚になりました。
撮影時期はパンデミックが始まってからなんですよね。その状況の中でこんなに大掛かりなものが作れて、当たり前ですがそれを一切感じさせないというのはすごい。その努力は自分たちもよくわかりますし、同時にエンターテイメントの素敵さを感じました。舞台上もそうですが、“切り取った画角の中”だけは、前と何も変わらない。そこに至るまでは本当に大変になってしまいましたが、希望があるな、と思いました。
―改めて、井上さんがミュージカルに惹かれる理由は、どんなところですか?
ドラマだけではなく、歌や踊りがあることによって見やすくなるのは強みだと思います。観てもらえる間口が広い。演じるだけではなくて歌も踊りもするというのは、専門性が高いし負担も大きいので、費やすエネルギーが大きくなくてはやれないんですよね。それでもやろう、というエネルギーが、ミュージカルの魅力のひとつだと思います。特にコロナ禍になり、余計に大変になったからかもしれません。やった先の効果やエネルギー、影響力を知っているから、みんな一生懸命そこに心血を注ぐところがおもしろいです。
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世界のすべてが詰まっている作品
―『ラ・ラ・ランド』(17)、『グレイテスト・ショーマン』(18)以降、日本でもミュージカル映画ブームが起きています。毎年のようにミュージカル映画でヒット作が生まれ、日本のミュージカルファンが増えている現状についてどう感じますか?
こんなにミュージカル映画がさかんになるという現状はあまり想像していませんでした。劇場に行かなければ観られなかったものが、映画版とはいえ各地の映画館で観られる。誰もが知っているミュージカルの曲が増えて、興味を持った人は劇場にも来てくれるようになって…本当にありがたい話です。コロナで一旦その流れが遮断されてしまったようなところはありますけど、その流れは続いてほしいです。
日本にいる僕たちも、“歌って踊る”ことへの耐性ができてきたということだと思います。30年くらい前は、「ミュージカルって恥ずかしいよね」「なんで急に歌って踊るんだ?」という考えが主流だったと思うんですよ。それが今ではどんどん変わってきました。学校でもダンスの授業があって歌って踊るし、当たり前のようにエンターテイメントを摂取できるようになってきた。逆に今は「なんで歌って踊るのがおかしいの?」という感じだと思うんですよね。その変化も僕たちにとっては追い風。一種の特殊な表現形態だったものが、そうではなくなったというのは大きいです。
それは僕たちにとってありがたいというだけではなくて、すごく素敵なことだと思うんです。ロクサーヌのように、思っていることを言う場はあるべきだし、そういう人を見るだけでも少し疑似体験できる。ミュージカルでなくてもいいですが、思いを委ねられるものはひとつでも多い方が生きやすいと思います。―最後に改めて、本作の1番おすすめしたいポイントをお願いします。
この作品の中には、世界のすべてが詰まっていると思います。特徴的な人を描いているはずの作品が、実は自分たちが生きている今の世界のすべての要素を持っている。みんなシラノであり、クリスチャンであり、ロクサーヌ。特別な人を描いているわけではなくて「みんなそうだ」ということを感じるために特徴的な設定にしているのだと思います。
驚いたのは、人間関係の心の動きだけではなくて、戦争や、そこでそれぞれの人生が翻弄されてしまうといういまだに続いている世界の状況をしっかり描いていること。僕たちが生きている世界の全部が詰まっていて、これを観れば世界のことはわかる、というほどの物語だと思います。 -
映画『シラノ』は2月25日(金)から全国公開。
© 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
取材・文:山田果奈映、クランクイン!編集部/写真:高野広美
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