『坂道のアポロン』原作者・小玉ユキ一問一答インタビュー 実写映画は「奇跡が起きています」

アニメ・コミック

 小玉ユキの人気漫画が、実写映画『坂道のアポロン』となってスクリーンに登場する。長崎県・佐世保市を舞台に、孤独な青年・薫(知念侑李)と、札付きの不良と恐れられる千太郎(中川大志)、千太郎の幼馴染の律子(小松菜奈)との出会いや友情を描く本作。映画を観た原作者の小玉は「最高です!」と大感激。生みの親だからこそ語れる、本作の感動ポイントを教えてもらった。

――実写化のお話を聞いたときの率直な感想を教えてください。

小玉:アニメ化されたときに、音楽もすべてベストな状態でやっていただいて。スタンディングオベーション!大満足だったんです。実写化となると、“いいものができるといいな”と思いつつ、どうなるか想像がつきませんでしたが、話が進んでいくごとに出てくるものが素晴らしいものばかりで。俳優さんたちの衣装合わせのときの写真を見て、グッと期待が高まりました。さらに“俳優さんたちには楽器を弾いてもらいます。猛練習しています”と聞いて。無茶振りをしているなと思いましたが、愛情をかけて作ってくださっていることがひしひしと感じられました。

――映画化にあたり、小玉先生の方から「これだけはやってほしい」とお願いしたことはありますか。

小玉:原作で描いた坂道を使ってほしいとお願いしました。あれは実際にある坂道で。本作を映画化するならば、やっぱりあそこを上ってきてほしかったんです。あのシーンは絶対に見たいと思い、ロケにもうかがわせていただきました。知念さん演じる薫が歩いてきた瞬間、“薫、上ってきた!”とうれしくなりました。知念さんはいつもはキラキラとしたアイドルでいらっしゃるので、“どうなるんだろう?”と思っていたんです。でも背中をちょっと丸めて、神経質そうにメガネを上げながら歩く姿は薫そのもの。信じられないような想いでした。原作から抜け出してきたようでしたね。

――確かにいつもはHey! Say! JUMPとしてステージに立たれている知念さんが、しっかりと薫としての孤独を身にまとっていらっしゃいました。

小玉:やはりアイドルをされている方なので、お会いするまではもっと外側にバーンと向いている方なのかなと思っていたんです。でもお話しすると、ものすごく謙遜する方で(笑)。“いやいや、衣装のおかげです。周りの方のおかげです”となにをどう褒めても謙遜する。薫と魂の部分も似ているのかもしれないなと思いました。それでいながら、現場では知念さんがみんなを力強く引っ張ってくれていました。プロデューサーさんに聞いてみると、“知念さんがいつも真ん中に立って雰囲気を明るくしてくれた”とおしゃっていました。

――千太郎はある意味とても漫画的なキャラクターですが、中川さんが豪快さと繊細さとともに素晴らしく演じられていました。

小玉:千太郎、いましたね…。私も信じられません(笑)。千太郎を中川大志さんが演じると聞いたときは、いままでに中川さんがやっていらした役柄も“かっこいい、さわやかなお兄さん”というキャラクターが多いのかなという印象があったので、どうやったら千太郎になるんだろうと…。でも髪を切って、体を少し大きくされて、声も低めのトーンにして千太郎にしっかりとなっていました。現場でお会いしたときには、歩き方まで千太郎でしたよ。それに中川さんは方言がとてもお上手で、これには方言指導の方も“吸収が早い”と驚いていました。子どもを連れて撮影現場に伺ったこともあるんですが、中川さんが一緒に遊んでくれて。子ども好きな面も千太郎そっくりでした。

――小松菜奈さんの演じた律子も、とてもかわいらしかったです。

小玉:本当にかわいかったですね。実はキャスティングを聞いて一番心配だったのが、律子なんです。律子は自分に自信のない素朴な田舎娘ですから、“あんなに美しくて都会的な小松さんが律子をやるなんて”とちょっと申し訳ない気持ちにもなって(笑)。でも実際にお芝居を見たら、内側から優しさがにじみ出てくるような、本当にかわいい律子にしてくださった。これは薫も一目惚れするなという説得力がありました。いつもはランウェイを歩いているような方なのに、ワシワシと走る姿なんて田舎娘そのもの。女優さんってすごいですね!

――ディーン・フジオカさんが演じた、淳一の印象を教えてください。

小玉:あるとき、原稿をやりながらアシスタントさんと“淳一をできる人なんて、ディーンさんくらいしかいないんじゃない?”と話していたときがあって。そうしたらその日の夕方に“ディーンさんに決まりました”とご連絡をいただいたんです!しかもディーンさんは“この役をやるならば、歌わせてほしい”とも言ってくださったそうで、もう願ったり叶ったり。ものすごいタイミングだったので、びっくりしました。淳一の歌唱シーンは、実際に現場で見ていたんですが、“私はいまなにを見ているんだろう”と思うほどかっこよかったです。そこにいる全員がうっとりと息を呑んでいました。

――文化祭の演奏シーンは、本作の大きな山場となります。現場で見学されたとのことですが、いかがでしたか?

小玉:文化祭のシーンは、連載が始まるときから“ここを目指して描こう”と思っていた、一番大事な場面です。アニメでこれ以上ないくらいに素晴らしく描かれていましたし、あの複雑なアレンジをどうやって演奏するんだろう?とドキドキした想いで当日を迎えました。本当にすごかったですよ…。生の演奏、その力に圧倒されるばかりでした。漫画に音はありません。私の頭のなかで鳴らしていた音が目の前に現れたと思うと、鳥肌が立ちました。“これです!”と大感激でした。

映画の撮影では、同じシーンを違う角度から何度も撮影しますが、その都度、知念さんと中川さんが曲を最初から最後まで本気で弾いていました。1人だけの顔を寄りで撮るシーンでは、もう一方は映っていないので演奏しなくてもいいはずで。それでも2人は常に目線を合わせながら、ニコニコして演奏していました。楽しくて仕方がない、もっと弾きたいといった様子が薫と千太郎そのものだったんです。その姿を見て、本当にお2人にお願いしてよかったと思いました。
 

――三木孝浩監督は、この物語を薫と千太郎のラブストーリーだと解釈されたそうです。彼ら2人のシーンで、実写として見られてうれしかった場面はありますか?

小玉:監督、わかってくれているなと思いました。薫という男の子にライバルでもあり、憧れでもある大きな男が現れて、奇妙な友情で結ばれている姿を描きたいと思って始めた作品です。もちろん坂道を下りるシーンや文化祭のシーンは欠かせないシーンでしたが、カットされてもおかしくなかったと思うと、見られてうれしかったのは薫と千太郎が肩を並べてオルガンを弾くシーンです。孤独だった者同士の気持ちが共鳴していくシーンなので、映画にもあったらいいなと思っていました。そうしたらしっかりと描いてくださっていて、“これだよ”と!うれしくなりました。

――原作ファンのなかには、実写化に対して不安に思っている方もいるかもしれません。

小玉:奇跡が起きています。大成功する場合もありますよ!と言いたいです。そしてアニメ版が好きな方なら、絶対にこちらも好きになると思います。観ればわかります!『坂道のアポロン』は私にとって初めての長期連載となった作品で。昭和の時代が舞台でメガネの男の子が主人公の漫画なんて、少女漫画としては異例だったと思います。でも描きたいものをきちんと描いてきてよかった。映画としてこんなに素敵な作品にしていただき、“大きくなったなあ”と子どもの成長を見ているような想いです。
(取材・文:成田おり枝)
  『坂道のアポロン』は3月10日より全国ロードショー。

『坂道のアポロン』
『坂道のアポロン』

第 57 回小学館漫画賞一般向け部門受賞、2009 年版「このマンガがすごい!オンナ編」第 1位に輝いた、「月刊 flowers」(小学館)にて連載された伝説的コミック「坂道のアポロン」が満を持して映画化。 舞台は長崎県・佐世保。高校生の西見薫(にしみかおる)は、父を亡くし親戚の暮らすこの町へと引っ越してきた。孤独を感じる薫だったが、“札付きの不良”と恐れられるクラスメイト・川渕千太郎(かわぶちせんたろう)、心優しいクラスメイト・迎律子(むかえりつこ)と出会う。初めてできた一生ものの親友、千太郎を想う律子に対して焦がれる一生ものの恋。千太郎を通じて知ったジャズの魅力に取りつかれ薫と千太郎はセッションを町中に響かせていく―
 

[ 原作者・小玉ユキ]
9月26日長崎県生まれ。2000年に「CUTIE comic」(宝島社)にて『柘榴』でデビュー。2007年~2012年に『坂道のアポロン』を「月刊flowers」(小学館)にて連載し、第57回小学館漫画賞一般向け部門を受賞。2013年~2017年には同誌にて『月影ベイベ』を連載した。

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