丸山ゴンザレス、クライムドラマ『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』のリアリティに感嘆! 麻薬密売の真実に迫る
提供:スター・チャンネル
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ジャーナリスト・丸山ゴンザレスが話題のドラマ『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』を絶賛!
世界3大陸にまたがって繰り広げられるコカイン密輸に関わるイタリアマフィアとメキシコ麻薬カルテル同士の権力抗争をリアルに描く犯罪アクションドラマ『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』が現在、BS10スターチャンネルにて独占放送中だ(配信は「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」)。日常の生活では決してお目にかかることのないようなハードな描写が次々に登場する本作。フリーのジャーナリストとしてメキシコを始め、さまざまな国の裏社会を取材してきた丸山ゴンザレスさんは、どのような感想を持ったのだろうか――ゴンザレスさんならではの際どいトークで作品の魅力を紹介する。
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本作は、世界的ベストセラーとなった「死都ゴモラ」の著者であるロベルト・サヴィアーノが手掛けたノンフィクションノベルを原作にした物語。イタリア・カラブリア州のマフィアの首領であるドン・ミーノが、組織の立て直しのため、大掛かりなコカイン買い上げを図るなか、売り手となるメキシコ人犯罪組織のレイラ兄弟、それに協力するメキシコ軍組織の内通者マヌエル、そしてコカインを搬送するアメリカ・ニューオリンズの運送業者リンウッド家など、さまざまな大陸の人間たちの壮絶な“戦い”が描かれる。監督を『ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ』のステファノ・ソッリマが務め、ハイクオリティかつ迫力満点の映像・演出も見どころだ。
エドワード・リンウッド
ドン・ミーノ
ありとあらゆる手段を使って麻薬を運ぶ!
――メキシコを始め、海外の危険地帯への取材経験が豊富なゴンザレスさんからみた、本作の率直な感想をお聞かせください。
この作品のベースとなっているのは、ロベルト・サヴィアーノのノンフィクションノベルなのですが、彼はナポリのカモッラの実態を描き組織から脅迫され、イタリア政府から身辺警護をされるほどです。当然、それぞれの地域や人物のディテールがしっかりしているなとまず感じました。特に、イタリアマフィアの抗争など事実をどこまで物語として膨らませているんだろう……という視点で見ると、非常に面白い作品でした。
――リアリティがベースになっていると?
そうですね。どのエピソードも事実に基づいて肉付けされているというか……まったくのフィクションというものはないんじゃないでしょうか。メキシコではマヌエルという人物が出てきますが、軍人がバイヤー側に転身するような話は普通に起きている。ハラペーニョにマリファナを入れて運ぶというのも現実にあった話です。登場人物の心の揺れなんかもリアルですね。コカインを運ぶブローカーのエマ・リンウッドがアフリカでイスラム過激派みたいな組織に捕まったときの絶望感なども、私自身、似たような経験があるので、「わかるなー」って思いました。まあ、あえてフィクションっぽいと言うなら、エマがかなりの美熟女というのは、ちょっとファンタジーかもしれませんね(笑)。それと、組織犯罪が主流になっている現在のイタリアに、あのドン・ミーノのようなゴッドファーザー的存在のシブいおじいちゃんが今もいるのかは少し疑問ですね。でも、いたらいいなとは思います。
エマ・リンウッド
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――売り手、買い手、ブローカーというプレイヤーが出てきますが、肝になるのは?
麻薬ビジネスにおいて、一番肝になるのは輸送ブローカーなんです。リスクも高いですからね。物語ではガブリエル・バーン演じるエドワード・リンウッド家が経営する一般企業が、麻薬の輸送に手を染めますが、基本的には、シッカリした企業がこういうことに手を染めることはないです。日本でもみんなが知っているような大きな会社は、いくら儲かるからといって麻薬の輸送なんて絶対やらないですよね。もっと“現場レベル”で事は運んでいくので、組織のトップが直接表舞台に出てくるような取引は起こらないと思います。
――その他、ブローカー視点で見て感じたことは?
この作品では、とても大きな船できちんと麻薬を運んでいますが、実際のやり方はさまざまです。ドラマに出てきたハラペーニョに入れる方法はもちろん、強力な磁石で船体の外側につけるとか。あとは、麻薬を輸送する場合、すべてが成功するという考えではないんです。メキシコから国境を超えてアメリカに入る麻薬の運び屋なんかは、例えば1人に全部持たせるのではなく、100人ぐらいに持たせて届けさせて、そのうちのいくつかが届けばいいという感覚。もともと相場はあってないようなものなので、届いた量で値段を決めればいいというぐらいなんです。
――それだけ不確定要素が多いんですね。
だからこそ、あらゆる知恵を絞っているんです。ある意味で裏社会の人たちって最新テクノロジーなどに注目している。今では新たな輸送方法となりつつあるドローンも、早くから目をつけて利用していたのが麻薬輸送の連中なんですね。ドローンを使ってコカインを運ぶのも、早い段階からやっていたし、これは不確定な情報ですが、中国などは、船便のコンテナチェックのX線を偽装できる技術なども開発していると聞きます。
一方でアナログな方法も続いています。それも想像の斜め上にいくやり方で。大量の輸送が可能になる麻薬トンネルというのがあるのですが、メキシコの国境付近に掘られると思いますよね。ところが、国境付近に出口があるのではなく、アメリカ側で麻薬組織が合法的に所有している土地まで穴を掘るんです。私有地なので、捕まえられないじゃないですか。本当に想像を超えたやり方をしてきます。
――難易度によって値段も変わるのですか? 運ぶ側には日本も含まれるのでしょうか?
そうですね。麻薬の値段設定として国境を越えるたびに値段が上がっていきます。陸路だと運び込む人員が必要なので想像しやすいでしょうけど、海路の場合だと、寄港地に寄るたびに値段は上がります。ドラマでもアフリカのエピソードで描かれていましたが、各税関で賄賂が必要になりますから。逆にそれが通じるところしか通らない。
ちなみに日本は市場としては相当小さいし、島国なので陸路での運び込みができない。必然リスクも高くなっていきます。日本の組織としては商品が欲しいのでしょうが、売る側もリスクと儲けの天秤をはかるんじゃないかな。実際、生産国のボリビアの値段と比べて、日本では現地の10倍はするんじゃないでしょうか。国境を超えて入ってきた分が加算されていますから。 -
家族のためだからこそリスクの高いことでもやる
――劇中、メキシコで麻薬の抗争によって街中で銃撃戦が起きたりする描写がありました。ああいったことは日常茶飯事なのでしょうか?
よくある……とまでは言い切りませんが、珍しくはない光景だと思います。地元の人は慣れ切っているわけではなく、みんな怖いと思っています。でも起こり得ることなんだという感覚ですね。その辺りのイメージがしにくいのは、日本ではありえないことだからでしょうね。それは日本の警察機構が優秀でしっかりしているから。もし抗争で堅気の人を巻き込んでしまったら、警察から相当追い詰められることは反社会的組織もわかっている。そして、日本の警察にはそれができる力があるんです。でも海外って警察の待遇は決して良いわけでもないので、賄賂が横行していて警察自体が善であるという認識が低い。そこまで警察を脅威だと思っていないから、無茶をしてしまうんです。
――登場する人物たちが犯罪に手を染める動機が「家族のために」という描かれ方がされています。現実でも「ファミリー」というのは、彼らにとって大きな存在なのでしょうか?
人間というのは、社会のなかで生きている動物なので、そこから切り離されると生きていても楽しくないし、かなりの孤独感に苛まれる。家族は集団の最小単位であり、そこが欠落しているなか生きることって、どんな人でもすごく難しいと思うんです。だからこそ家族を守るためというのは、大きな動機になります。逆に家族や己の命を守ること以外に、こんなにリスクの高い仕事はしないと思うんです。もちろん物質的に満たされたいという人もいるとは思いますが、それはごく少数ですよね。
ドン・ステファノ
あとは裏切りがあたりまえのような世界のなか、信用に値する人は誰か……と考えた場合、必然的に家族ということになる。もちろん、ドン・ミーノファミリーのように、家族間での裏切りもありますが、まったく知らない人間よりは家族を頼ったほうがまだましだという考えもあるんでしょうね。
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コロナ禍は裏社会にも大きな影響が!
――コロナ禍を経験して、人々の生活様式は様変わりしていますが、裏社会も大きく変わってきているのでしょうか?
その点について、正直僕もまだ取材できていないのでわからないところはありますが、海外の情報源の連中から伝え聞いたり、理屈で考えて想像できる部分はありますが、なかかな難しいですね。例えば、コロナ禍が明けたとして、それまでに抑圧された生活を強いられていたので、一気にコカインパーティなどが頻繁になって、ハードドラッグ需要が増えるかなと予想できます。ところがもう一つの予想もできる。静かな環境に慣れてしまったため、マリファナでまったりと過ごすぐらいでいいかなって思ってハードドラッグから離れてしまうかもしれない。実際アメリカでは、コカインではなく、マリファナの需要が増えているようですしね。
また、より一層、金持ちと貧困層が分断してしまい、貧困層のネットワークもズタズタになってしまったと思うんです。果たして以前のように、お金持ちに使われる人たちが再構築できるのかというのも問題です。さらに物流という部分でも、表社会の輸送も滞っているなか、裏社会がどこまで入り込めるか。正規の輸送量が減れば、隠れ蓑も減るので、チェックが相当厳しくなるのは明白です。僕もそのあたりはかなり興味があるので、中南米はもちろんですが、ヨーロッパにも足を延ばして現状を確かめたいと思っています。
――非常に興味深い話をたくさんしていただきましたが、ゴンザレスさんから見た、本作の大きな魅力というのは?
この作品は群像劇なので、誰に思い入れを持って見るかというのが、楽しみ方の一つだと思うんです。昨今の日本の価値観で見ると、主要登場人物はすべて悪人、犯罪者ですよね。だけど、家族や恋人、夫婦を大切にするなど、愛に溢れた人が多い。マヌエルなんかも、凶悪な犯罪者でありながら信心深い人。信仰心の強い人間が、神に祈りを捧げたあと、その足で人を殺しにいくなんてことなんてあるのか…と思うかもしれませんが、人間って誰しも多面的であり、いろいろな矛盾になんとなく折り合いをつけながら生きているはずなんです。わかりやすい例を挙げるなら、環境のことを考えるなら人間は増えない方がいいですよね? でも、経済を回すためには人口を増やさないといけない、これも矛盾ですよね。流石に極論が過ぎますけど。
マヌエル・キンテラス
クリス・リンウッド
本作では、非常に多面的に人間というものを捉えているので、まったく飽きがこないんです。最初は登場人物が多くて、混乱してしまうかもしれませんが、逆に言うと3話目を超えたあたりから、そこが活きてくる。4話目ぐらいからはもう止まらないです(笑)。個人的な萌えポイントは、ブローカーのクリスですね。彼はセネガルで出会った人とすぐに仲良くなりますよね。誰の紹介でもなく知り合ったばかりの人を頼るなんてリスク以外のなにものでもない。そんなの裏社会じゃなくてもわかりますよね。まあ、そこが彼の良さでもあり、やばいところでもあり、愛すべきキャラだなと思って楽しみました。
ドラマ『ZeroZeroZero 宿命の麻薬航路』は、BS10 スターチャンネルにて独占放送中。Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」でも配信中(毎週火曜に1話ずつ更新)。
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取材・文:磯部正和、クランクイン!編集部 / 写真:高野広美
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