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安藤春監督『MIRROLIAR FILMS』選出の電話が人生の転機に 『CUT!』制作の原動力は“怒り”

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P R: MIRRORLIAR FILMS PROJECT

『CUT!』場面写真
『CUT!』場面写真(C)2025 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

 クリエイターの発掘・育成を目的に、映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』。1月16日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定で上映されるシーズン8までに、著名クリエイターから一般公募まで、俳優、映画監督、漫画家、ミュージシャンなどが監督した57本の短編映画が劇場公開。今回クランクインでは、シーズン8を彩る6作品の監督にインタビューを実施。第5回目は『CUT!』の安藤春監督に、公募作品として選出されたときの気持ちや制作秘話を語ってもらった。

■10年間バンクーバーの映画業界で活躍

──安藤監督はバンクーバーの映画業界で10年ほど活躍されていたそうですが、これまでの経歴について教えてください。

 最初は日本の大学に進学しようと思っていたのですが、「LAに近いバンクーバーなら間違いないだろう」と、なんとなくバンクーバーの大学で映画学科に入りました。在学中に編集の仕事が軌道に乗り始め、気づけば在学中に20本くらい制作していましたね。本当は監督をやりたかったのに、周囲からそう見られなくなったことがフラストレーションとなり、その思いをぶつけたのが『CUT!』です。でも自分は、編集者のキャリアを積んでから監督になった人が好きなんです。ミヒャエル・ハネケや、『アラビアのロレンス』のデヴィッド・リーンもそうですね。東京に戻ってきてからも編集作業を主に担いながら、たまに監督をしているという感じです。

──編集者としてのキャリアを持つ監督には、何か特徴があるのでしょうか。

 監督にもいろんなタイプの人がいると思うんですが、編集の視点を持っている人は、あらかじめすべてを決めた状態で作っていく印象があります。頭の上で編集したうえでストーリーを書き、場面転換するタイミングもカットも、すべて作り上げておく。そのおかげか、自分の場合は撮影もすごく速いです。『CUT!』はカメラを2台使ってパパッと撮影が進んで、撮影期間を3日間取っていたんですが、2日で終わってしまいました(笑)。

──なるほど。大学の卒業制作として2017年に作られた『CUT!』は、B級映画の撮影現場を舞台としたサスペンス作品ですが、どういうところに着想を得たのでしょうか。


 僕は映画セットが舞台となる作品が好きなんです。でも『CUT!』で一番インスピレーションを受けたのは、今敏監督の『PERFECT BLUE』ですね。場面が転換していく中で、「これは果たして実際に起きていることなのか、はたまた劇中劇なのか」と、観ている側がわからなくなるような揺れ動きを撮りたいと思いました。

──光と影の繊細な表現などから、登場人物の心情が伝わってくるように感じました。

 ありがとうございます。劇中劇の撮影シーンは暖かい色合いのきれいな空間で、カメラもフィックスでブレない、完璧な世界。でも現実世界は味気ない青白い蛍光灯の光で、カメラはずっと手撮りで揺れている。自分が生きている現実は、味気なくて嫌なことばかり…そんな対比を意識しました。

■「ぶっ壊してやる」というエナジーが込められている

──キャストの皆さんは、当時の大学の同級生の方々ですか?

 フィル役のケルヴィーン・タマナだけがプロで、あとは学生ですね。主人公のピーター役は、オーディションで選んだ人が撮影2日前にいなくなってしまって、俳優科のイアン・レヴィックを急きょ紹介してもらいました。イアンとは撮影当日に初めて対面したので、よく見ると衣装がツンツルテンなんです(笑)。そんなふうに、いろんな奇跡を経て完成した作品ですね。今回の『MIRROLIAR FILMS』選出を知らせたら、イアンもすごく喜んでくれました。

──完成度の高い作品だと感じましたが、裏側ではそんな危機があったんですね。

 僕はなかなかメガホンを撮る機会がなく、卒業間際にやっとチャンスが来たのに、撮影に来るはずの人たちがほっぽり投げてキャンプに行ってしまったり、先生にも適当にあしらわれたり…。そんな中で当時の僕はブチギレてしまい、脚本を一度全部捨て、ベッドの上で書き直して完成したのが『CUT!』です。


 作中でピーターが「俺がどれだけ必死だったか知らないのか!」と監督の胸ぐらを掴むシーンがありますが、あれは僕が実際にやったことですね(笑)。あの頃の「ぶっ壊してやる」というエナジーが込められています。

──怒りが原動力になった、と。一方で、安藤監督のコメントには「初めて本気で作れた作品であり、今までで一番心を込めた作品」という言葉もありました。

 4年間の大学生活でとても成長させてもらったし、いろんな体験もできて、同級生のみんなにはすごく感謝しているんです。監督役のスティーフンも、すごく仲がいい友人で。ほかにも『CUT!』の中には当時僕のルームメイトや好きだった人など、いろんな人が映っていて、僕自身も一瞬だけ映り込んでいるんですね。そういうこともあって、僕の中では思い出のアルバムのような作品です。今見返すと、当時の自分はすごく尖っていたなと思いますね。鼓舞してもらえる感覚があるので、新しいものに取り組む時は『CUT!』を見返します。

■『MIRROLIAR FILMS』選出の電話が人生を変えた


──ちなみに、バンクーバーと日本では、制作環境や映画業界の体制でどんな部分に違いを感じますか?

 驚く方が多いかもしれないんですが、海外のほうが意外とシステマティックなんです。僕はバンクーバーで撮影されたドラマ『SHOGUN 将軍』に通訳として参加していたんですが、そのときにもすごく感じました。スタッフにも階級があって、「この階級の人はこの荷物に触ってはいけない」とか、線引きがはっきりしているんです。日本だとそのあたりは緩やかで、もっと自由にアイデアを出し合っている印象がありますね。『MIRROLIAR FILMS』プロデューサーの阿部進之介さんとも、『SHOGUN 将軍』の現場で出会いました。

──では『MIRROLIAR FILMS』への参加も、阿部さんとのご縁がきっかけで?

 阿部さんのインスタを見て『MIRROLIAR FILMS』のことを知って応募したんですが、その時は阿部さんには何も伝えなかったです。その時点で締め切りが2日後に迫っていました(笑)。選出されたときはすごくうれしかったですね。当時の僕は、日本で所属している会社の業務が自分に合わないと感じていて、今後どうしようかと悩んでいたんです。まさに上司との面談の直前に選出の連絡をいただいて、そこですぐに「会社を辞めます」と伝えました。あの電話をいただいてなかったら、僕はまだくすぶったままだったと思いますね。

──人生が変わった瞬間だったんですね。今後の作品制作の予定についても教えてください。

 原作を使った長編を撮りたいと思っています。中村文則さんの『私の消滅』という小説がすごく好きで、面白すぎて夜通し読んでしまったんですよね。アドレナリンが出る感じが、自分の作品でやりたいことと似ていて。ただ原作を任せていただくには僕はまだ実績が足りないので、まず短編を作ろうと思っているところです。

──最後に、『CUT!』を劇場で観てくださる方へメッセージをお願いします。

 好きなように楽しんでほしいですが、僕の作品を良いと言ってくれる方は情熱を持っていたり、何かに打ち込んでいたりする人が多いので、そういう人に何かを感じてもらえたらうれしいですね。僕は『CUT!』を「何かに打ち込むことは間違ってない」と自己肯定する映画として作った部分もあるので。何をしてもうまくいかないと感じている人に見ていただいて、「この監督にも同じような時期があったんだな」と感じてもらえたら幸いです。

『MIRRORLIAR FILMS Season8』は、1月16日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定上映。


『MIRRORLIAR FILMS Season8』予告編

取材・文:岸野恵加

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