妻の“おなら”から着想を得た『ラの♯に恋をして』 廣田耕平監督「恥ずかしい失敗も、人からは可愛らしく見えるよ」と肯定したい
P R: MIRRORLIAR FILMS PROJECT
クリエイターの発掘・育成を目的に、映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』。1月16日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定で上映されるシーズン8までに、著名クリエイターから一般公募まで、俳優、映画監督、漫画家、ミュージシャンなどが監督した57本の短編映画が劇場公開。今回クランクインでは、シーズン8を彩る6作品の監督にインタビューを実施。第4回目は、『ラの♯に恋をして』の廣田耕平監督に、本作が生まれるきっかけとなったエピソードや、こだわりのシーンまでを語ってもらった。
■呉服屋とピアノのユニークな掛け合わせ
──まずは、廣田監督のこれまでの活動についてご紹介ください。
CMやMVの制作、映画の助監督などをしてきました。学生時代は自主映画をよく作っていたのですが、コロナ禍を機にまた制作欲が湧いて。ずっと憧れていた長編映画の監督を目指し、これまでに3本ほど制作しています。『ラの♯に恋をして』は八王子Short Film映画祭の企画コンペで選出していただいて、2021年に撮った作品です。クラウドファンディングで予算を少し上乗せし、少し気合いを入れて制作しました。
─八王子という土地にはもともと縁があったんですか?
いえ、映画祭がきっかけです。知人から八王子は呉服屋が有名と聞いて、そこからストーリーを膨らませていきました。
──呉服屋とピアノという、和洋折衷の組み合わせが新鮮でした。
企画コンペのテーマが「出会い」だったので、「何か面白い出会いのきっかけはないかな」と考えていたところ、妻がおならをして「これは使える」と思ったんです。そこから、おならで出会う男女のシチュエーションを考えていたときに、音がいいフックになりそうだとピアノをイメージしたら、ミスマッチな組み合わせが面白いなと。僕自身は音楽に明るいわけではないので、ピアニストの吉田太郎さんにたくさん助けていただきました。劇中でアキオが演奏する「6つの小品 Op.118 第2番」はブラームスが愛する人へ贈った曲だそうで、そんな背景も踏まえて、吉田さんが選曲してくださいました。
──作品全般に流れる音楽も吉田さんが作られていますが、音楽によって生まれるゆったりとしたムードも、本作の個性になっていますよね。
そうですね。後からスタジオで録った音もありますが、現場でそのまま録った音もあって、ピアノの音がきれいに残せていると思います。今回の上映のため5.1chサラウンドにしたので、劇場で良い音を堪能してほしいですね。でも、日本家屋にピアノがあるというロケーションを実現するのは、けっこう大変でした。八王子の西室という呉服屋さんに全面協力していただき、いろんな日本家屋を見させていただいたのですが、しっくりくる場所がなかなかなくて。最後にやっと出会えた空き家がすごく雰囲気がよく、その後ろにお住まいだった息子さん夫婦のご自宅からピアノを移動させて、なんとか思い描いた画を実現できました。
あと、アキオとテルが再会するシーンはストリートピアノをイメージしていたんですが、コロナ禍でなかなか使用できるところがなく、八王子にあるホールに置かれたピアノを使わせていただいたんです。頑張って探した甲斐あって、いい画が撮れていると思います。
──八王子の街の方々の印象は?
本当に皆さん、優しかったです。西室さんはお着物を破格で貸してくださいましたし、調律師の方が現場でしっかり監修してくださったり、お茶の先生に現場で美しい所作のご指導をいただいたり。細部までこだわれたことが本当にありがたかったですね。
■テイクを重ねた、母に反発するシーン
──キャスティングはどのように行ったのでしょうか。
気合いを入れて撮りたかったので、メインキャストは以前から自分がご一緒したいと思っていた方にお声がけしました。北浦愛さんは、7、8年くらい前にMV制作のお仕事でご一緒したんですが、演技が素晴らしくて美しい方だな…とお名前を覚えていて。知人経由で事務所にアタックしたら、普段自主映画はあまり出ないそうなんですが、快諾いただきました。小松勇司さんも僕が助監督をやっていた映画に出演されていた方で、自分の中で勝手に、北浦さんと会いそうだなと。そのほかの方々はオーディションです。
──テーマ的には20代の男女でも成り立つお話だと思いますが、少し大人の男女に据えたのはなぜでしょうか。
テルは品のある、少しモヤモヤを抱えている女性像にしたかったんです。夏海さん演じる姪っ子が20代前半のイメージだったので、彼女との対比もイメージしました。
──呉服屋を手伝う姪が母親から古き良き女性像を押し付けられているところに、テルが反発するシーンは印象的でした。恋愛模様だけではなく、女性の生きづらさの描写が差し込まれることで、作品として深みが生まれていますよね。
ありがとうございます。先日北浦さんにお会いした際に「母に反発するシーンは、監督がすごくこだわっていましたよね」と言われたんですよ。あまり自覚していなかったけど、確かにあそこは時間をかけて何テイクも重ねたな…と、記憶がよみがえってきました。
──あのシーンは北浦さんの演技が特に乗っていた気がします。初共演のキャストぞろいだったと思いますが、現場の雰囲気はいかがでしたか。
撮影部も照明部も助手をたくさん集めていただいて、大人数の現場だったので「こんなに人がいるなんて、やっていけるかな…」と初日は戸惑っていました(笑)。でも役者の皆さんも対応力が高い方ばかりだったので、僕にとってはひたすらぜいたくな現場でしたね。
■“情”を大切に、優しい映画を作りたい
──『MIRRORLIOR FILMS』には、以前から参加したいと思っていたのでしょうか?
そうですね。これまでのシリーズもすべて拝見していました。15分という尺は、カンヌ国際映画祭の短編部門と同じなんですよね。カンヌに憧れてこの作品を15分で作り、カンヌは残念な結果に終わったのですが、15分という尺のおかげで、いろいろな映画祭に応募することができました。
──プロデューサーの山田孝之さん、阿部進之介さんからはどのようなフィードバックを受けましたか。
どうやら、山田さんがすごく『ラの♯に恋をして』を推してくださったようなんです。岡山の舞台挨拶でも、阿部さんが「『ラの♯に恋をして』については山田に譲ります」と振ってから、山田さんが感想を話してくれたくらいで。山田さんは「すべてのお芝居がリズムの中にはまっているのが素晴らしい。そしてピアノのシーンで、そのリズムが崩れるんです!」というふうに熱弁してくださったんですが、僕にはその評価が難解で、いまだに理解できていないんですよ(笑)。何か誤解をされていないかと心配になりました。
──(笑)。テンポがよく、あらゆる方が見やすい作品であるというのは、きっと廣田監督作品の魅力だと思います。いずれは長編作品を撮りたいそうですが、今後はどのようにメガホンを取っていきたいですか。
『ラの♯に恋をして』のあとに『お茶の子、歳々。』という28分くらいの短編を作って、2025年はそれを様々な映画祭に応募しました。まだ自分の演出が固まりきっていないところがあるので、もう1本くらい短編を撮ってから、気合いを入れて長編に取り組みたいです。父が『男はつらいよ』が大好きで、僕はそれを観て育ったんですが、“情”は自分の中に大事なものとして残っていると思います。『ラの♯に恋をして』も「恥ずかしい失敗も、人からは可愛らしく見えるよ」という肯定的な思いを込めて作ったのですが、そういう“情”を大切に、今後も優しい映画を作っていきたいです。
『MIRRORLIAR FILMS Season8』は、1月16日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定上映。
(C)2025 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
取材・文:岸野恵加
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