リトアニア人監督による公募作品『NAIKU』 阿部進之介プロデューサーも惹かれた“危険な匂いがする若者たち”
P R: MIRRORLIAR FILMS PROJECT
クリエイターの発掘・育成を目的に、映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』。Season1~4では、俳優や映画監督、漫画家、ミュージシャンなど総勢36名のクリエイターたちが、個性的な短編映画を発表した。そんなプロジェクトも新たなステージを迎え、Season 5~8は新たに一般公募作品も加わるなど、さらにバラエティに富んだ短編映画が集まった。今回クランクイン!では、シーズン5を彩る6作品の監督、キャストたちにリレー形式でインタビューを実施。第5回目は『NAIKU』のピウス・マチュルスキス監督と、『ミラーライアーフィルムズ』のプロデューサーを務める俳優の阿部進之介さんに、本作の魅力を語ってもらった。
■先の読めない恐怖、不安を圧倒的な暴力と残酷さで描く!
風変わりな10人のギャングたちが、廃墟と化した工業地帯をジープで走り回る。その場を通りかかった主人公のアドマス(エリック・ヴォジェヴォディン)はギャングたちのゲームへと誘われ、辿り着いた先は、暴力的なトーナメントだった。目的のわからないゲームに困惑するアドマスだったが、対戦は次第に非人道的な争いへと化す。
■「自分を信じて、自分の好きな映画を作っていきたい」
――本作は2023年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭短編部門でグランプリを獲得されていますが、『ミラーライアーフィルムズ』に応募しようと思った理由を教えてください。
ピウス監督:(監督の出身国である)リトアニアやヨーロッパではあまりフィードバックがなく、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2023」をはじめ日本ですごく感触が良かったので、『ミラーライアーフィルムズ』を知っていたディストリビューターの方にご紹介をいただきました。
――シーズン5から、公募された作品も『ミラーライアーフィルムズ』に加わりましたが、プロデューサー陣はどういった選考方法をされているのですか?
阿部プロデューサー:審査をする人間が公募作品に点数をつけて、その合計得点が高い作品が選ばれるというシンプルなものです。もちろん点数だけでは決まらないときもありますが、基本的には点数制を採用しています。個人的に『NAIKU』は、とても興味深い作品だなと思っていて、得点をつけた作品でした。
――本作はすごく乾いた感じの映像で、登場人物の目線が不安をあおるような作品でした。この作品が生み出された経緯は?
ピウス監督:僕はリトアニアでバスケットボールをやっていて、ヨーロッパ大会に出るぐらいのハイレベルのチームに所属していました。すごく内部競争が激しいチームだったのですが、12~13歳ぐらいのとき、国境近くの小さな街に試合のために遠征したんです。そのとき宿泊したホテルで、ビリヤードのボールを使ったゲームが始まって、映画のとは違うのですが、怪我をするぐらいエキサイトしてしまって。その時の、子どもながらにお互いを蹴落とす感じとか、競争心の行き過ぎた感じがすごく記憶に残っていました。そこですごく印象に残って忘れられなかった感情にインスパイアされて、この映画を撮ることにしました。
――「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2023」でも好評価を得ましたが『ミラーライアーフィルムズ』に応募する際、編集はし直したのですか?
ピウス監督:もともとの映画は長かったんです。『ミラーライアーフィルムズ』は15分という尺だったので、物理的な長さを縮める作業を行いました。しかしその作業をするうちに、より映画がクリアになっていくような感じがしました。いまはショートバージョンの方が気に入っています。
――阿部プロデューサーは先ほど『NAIKU』を評価していると話されていましたが、具体的にはどんな部分が良かったのですか?
阿部プロデューサー:監督が若いころに感じた恐怖心とか不安な気持ちが伝わってきたんです。不安定で危険な匂いがする若者たちの姿に惹かれたというのが第一印象です。さらにコミュニティーのなかでの暴力の在り方がシンプルに描かれていたことも興味深かったです。エンディングも好きです。
――日本という国でご自分の映画が劇場公開されるお気持ちは?
ピウス監督:エキサイティングの一言に尽きます! ぜひ直接映画館で観たいと思っています。そして日本国内を回ることで、さらに映画を観てくださる方が増えるといいなと思っています。私自身、劇場で映画を観ることが好きなので、そんな体験をさせていただけることが本当に素晴らしいことで感謝しています。
――リトアニアでは映画監督になるためにはどんなステップを踏む必要があるのでしょうか?
ピウス監督:リトアニアの場合、まず映画監督になりたいと思ったら、フィルムアカデミーで勉強します。そのあとは二つ方法があって、一つ目はスポンサーがつくようなストリーミングや、映画館で流すような興行収益に頼る商業的な映画を作る方法。もう一つは芸術作品として政府の助成金で映画を作ること。映画館で興行成績を気にするプレッシャーがないですが、非常に競争率は激しいです。
――ピウス監督はどちらの流れを進んでいるのですか?
ピウス監督:僕は将来のことやキャリアを考えずに、自分の表現したいことに集中したいと思っていますが、私自身、父が撮影監督だったので、映画学校に行かずに父から学ぶなど、ちょっと普通のキャリアとは違うと思います。もともとアートというものは、誰もがやれるべきで、誰もが受け取れるべきだと思っています。その意味で、国の助成金で作品を作る場合、インテリや映画に詳しい人達だけのための作品になってしまい、大衆には受けない映画ばかりになってしまう。一方で商業的なものだと、自分の描きたいものより、観客を喜ばせることが目的になってしまう。私はどちらもあまり好きではないので、自分を信じて、自分の好きな映画を作って、それが皆さんに届けばいいなと思います。
――阿部プロデューサーは、ピウス監督の思いを聞いてどんなことを感じましたか?
阿部プロデューサー:自分の欲求を大切にしたいという彼の思いは理解ができます。理想としては、自分のパッションで映画を作って、それが多くの人が観たいと思えるものだったら最高ですよね。今回の『ミラーライアーフィルムズ』の特徴は、複数のショートフィルムを上映することで、監督の好きなように作ってもらうことが可能になっていると思うんです。それは「プロジェクト」として作品を観てもらえるから。この監督はどんなものを作りたいのだろう……という思いを観に来てもらえる。日々いろいろなことを話し合いながらやっていますが、現時点ではそういうスタンスなので、より監督の思いが伝わるかなと思っています。
――最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
ピウス監督:『NAIKU』のダークなところが皆さんの心を刺激するような、なにかインスピレーションが生まれるきっかけの作品になればいいなと思っています。ぜひ劇場に足を運んでください!
『MIRRORLIAR FILMS Season5』は、5月31日(金)より2週間限定公開。
(C)2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
取材・文:磯部正和、クランクイン!編集部
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