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戦時下の会話劇をわずか10分で描く『ウエディング』 坂本ショーン監督「一部は真実で、一部は誤り」になる映画の面白さ

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P R: MIRRORLIAR FILMS PROJECT

『ウエディング』場面写真
『ウエディング』場面写真 (C)2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

 クリエイターの発掘・育成を目的に、映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』。これまで俳優や漫画家、ミュージシャンなど総勢47名のクリエイターたちが、個性的な短編映画を発表した。そんなプロジェクトも新たなステージを迎え、さらにバラエティに富んだ短編映画が集まった。今回クランクイン!では、シーズン7を彩る5作品の監督にインタビューを実施。第2回目は『ウエディング』の坂本ショーン監督に、公募作品として選出されたときの気持ちや本作の注目ポイントを語ってもらった。(※以下、ネタバレを含みます。ご了承の上、お読みください)。

■「観る人の感情に訴えかける表現を追求したい」と映像の道へ

──坂本さんはもともとコラムニストとして活動されていましたが、映像制作はいつ頃始めたのでしょうか?

 8〜10年くらい前です。妻のノリコは映像編集の仕事をしていて、一緒にドキュメンタリーを作っていました。自主制作のストーリー映画としては、今回の『ウエディング』が処女作ですね。数年前、私はある概念に葛藤している自分に気づき、「観る人の感情に訴えかける表現を追求したい」と考えるようになったんです。それには、映画という表現が最も適していると考えました。

──『ウエディング』は内戦が激化した近未来のアメリカを舞台に、地下壕に逃げ込んだ2人の父親を描く会話劇です。10分強の作品とは思えないほど見応えがあり、強いメッセージ性も感じました。着想はどこから得たのでしょうか?


 ありがとうございます。数年前にノースカロライナ州のシャーロッツビルで、松明を掲げてナチスのスローガンを叫ぶ抗議者たちを目の当たりにしたことが、本作の原点となりました。私はドイツ人の祖父母から、危険な政治運動に対して常に警戒心を持つように育てられましたし、歴史を学びながら「自分なら正しい行動ができるはずだ」と思っていたんです。でも憎しみに満ちたスローガンを叫ぶ人々を実際に目の前にしたとき、自分がどうすればよいのか、まったく分からなかった。その瞬間に気づいたんです。人間はある瞬間の真の全体像を頭の中で完全に把握することはできないし、一部は真実で、一部は誤りなのだと。世界を全く異なる視点で見る2人のキャラクターを描くことで、そのことを映画という形で探求したいと考えました。

■豪華なキャスティングが実現した経緯

──撮影はいつ頃行われたのでしょうか。リチャード・カインドさん、スキップ・サダスさんというメインキャストのお二人も非常に豪華ですね。


 脚本を書いたのは2017年ですが、制作資金を集めるのに時間が掛かり、撮影は2019年に行いました。ありがたいことに本当に素晴らしいキャストが集ってくれましたが、どちらも不思議なご縁なんですよ。以前ドキュメンタリー映像を一緒に撮っていたアンソニーという知人のお兄さんが、ハリウッドでは名の知れた作曲家で。あるアニメの現場で、アンソニーのお兄さんを通じて『ウエディング』のスクリプトがリチャードの手に渡り、彼がそれを気に入ってくれました。また、私は日本にいる間に尺八を習っていたのですが、そこで仲良くなった友人のお兄さんがスキップです。

──なんとも幸運な巡り合わせですね。緊迫感のある演技が素晴らしかったですが、現場ではお二人にどのようなディレクションをしましたか。

 彼らはベテランなので、下手なことを言って信頼関係を壊したくないし、現場ではとにかく彼らがやりたいことをサポートするというスタンスでいました。撮影前に、親しい友人から「俳優に伝えたいことを思い浮かべたら、その10%だけを伝えなさい」という素晴らしいアドバイスをもらったのですが、それを実践しましたね。

──坂本監督が特に手応えを感じた演技は?

 爆撃が起こり、スキップがイチゴを食べて泣くところの食べ方も好きですし、リチャードが話す「行動を起こすべき正しいタイミングなんて、結局なかったんだ。銃を取るには早すぎたし、気づけば遅すぎて、俺たちはただ部屋で座って、連中が来て殺されるのを待つだけだ」という悲しみに満ちたモノローグも気に入っています。

──作中に登場する「僧と虎」のエピソードは、仏教の経典にある説話ですよね。死ぬ前に最後の喜び(イチゴを食べること)を選ぶか、あるいは生きるために最後まであがくのかという。こちらはどのような思いから引用したのでしょうか。

 私は寓話が大好きなんです。説明しきれないものを、シンプルな物語を通して説明しようとする試みに心を惹かれます。寓話が意味するものは、それを見る私たちの視点や見るタイミングによって変わるんですよね。寓話が二重の意味を持つようになる瞬間も描きたいと考えていました。

■日本の田舎を舞台とした次回作を構想中

──ノリコさんの編集はいかがでしたか?

 ノリコは本当に素晴らしい編集者です。彼女が作業をしているときは、その姿に思わず見惚れてしまって大変でした(笑)。私が脚本を演劇的なスタイルで書いてしまったのですが、ノリコはそこに映画的な要素をどう取り入れるかという課題に向き合ってくれました。音楽やリアクションショット、テンポを巧みに操り、映画作品としてしっかりと成立させてくれたことに感謝しています。

──今後もお二人で作品制作を続けていくのでしょうか。

 はい。日本で撮りたいショートフィルムを2人で準備しているところです。田舎に住む男の子とおじいちゃんを書いた内容なのですが、私たちは息子が幼稚園児の頃、岐阜に3年間住んでいたんですね。当時の体験を生かして書きたいと思っています。

──今回『ウエディング』を「MIRRORLIAR FILMS」に応募しようと思ったのはなぜでしょうか?


 いくつかありますが、最も大きな理由は、山田(孝之)さんや阿部(進之介)さん、伊藤(主税)さんが掲げる「映画制作の民主化」というミッションに深く共感しているからです。映画という物語の力を日本全国の人々に届け、地方と連携しながら映画への関心と理解を深めていく。その取り組みにとても魅力を感じました。また、私は日本の人々や文化に対して強い親しみを感じていますし、近年アメリカではアジア映画への関心が高まっているので、私自身も日本の映画制作コミュニティの一員となりたいと考えました。こうして才能あふれる俳優や監督の方々とご一緒できることを、本当に光栄に思っています。たくさんのことを学ばせてもらえると期待していますし、将来的に一緒に作品づくりができる機会があれば嬉しいです。

──最後に、劇場で観てくださる方へのメッセージをお願いします。

 『ウエディング』は、皆さんを感動させ、考えさせ、そして楽しんでもらうために作った作品です。皆さんにとってそうした機会になったらうれしいですし、楽しんでいただけたら光栄です。

『MIRRORLIAR FILMS Season7』は、5月9日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定上映。


『MIRRORLIAR FILMS Season7』本予告

取材・文:岸野恵加

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