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武田成史監督、理想はA24のような活動スタイル 『KUTSUYA』は「追い込まれた男の表情の変化に注目して」

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P R: MIRRORLIAR FILMS PROJECT

『KUTSUYA』場面写真
『KUTSUYA』場面写真 (C)2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

 クリエイターの発掘・育成を目的に、映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』。これまで俳優や漫画家、ミュージシャンなど総勢47名のクリエイターたちが、個性的な短編映画を発表した。そんなプロジェクトも新たなステージを迎え、さらにバラエティに富んだ短編映画が集まった。今回クランクイン!では、シーズン7を彩る5作品の監督にインタビューを実施。第3回目は『KUTSUYA』の武田成史監督に、本作の注目ポイントやキーマンとなる靴屋の設定についてネタバレありで語ってもらった。(※以下、ネタバレを含みます。ご了承の上、お読みください)。

■ただ成敗するのではなく、改心する男を描きたかった

──2017年から映像制作集団「着火塾」の代表を務めていますが、どんな活動をされているんでしょうか。

 着火塾は「あなたのハートに火をつける」をコンセプトとしていて、観た人が少し元気になったり、背中を押してあげられるような作品を作りたいという思いで活動しています。今回の『KUTSUYA』のような短編映画はまた違う軸で、2008年頃から一緒にやっているスタッフと一緒に制作しました。

──『KUTSUYA』は盗作や振り込め詐欺など様々な悪行を重ねてきた小説家の男の運命が、道端の靴屋と出会うことで一変する作品です。着想はどこから得たのでしょうか?


 チームで話す中で、主演の尾本(卓也)が「主演の男が堕ちていくさまを撮りたい」と言ったことが始まりでした。それを受けて考えて、僕はSNSなどで匿名なのをいいことに誹謗中傷がはびこっている状況が許せないし、不思議でならなくて。でも、もしかしたら自分も、全く意図していないところで人に同じことをしているのかもしれない。そう考えたときに、悪いやつがただ成敗されるというよりは改心するようなストーリーにしたいと思い、イメージを膨らませていきました。

──鑑賞後はまさに、因果応報な展開にスカッとするような後味がありつつ、考えさせられる部分もありました。舞台にのどかな田園風景を選んだのはどうしてだったのでしょうか。

 脚本上、遅刻が許されない状況を作りたかったんですよね。都会だとすぐに電車が来てしまうから、大幅な遅刻はしないかなと思って(笑)。あとは撮影監督の竹山(尚希)から、望遠レンズを使ってローアングルで撮りたいという希望があり、田舎のロケーションになりました。千葉の小湊鐵道沿いの街で撮っています。

──部屋のシーンでゴミ箱の中から見上げる斬新なアングルがあったりと、カット割りやカメラのアングルに細かいこだわりを感じました。

 僕は竹山に絶大な信頼を置いているので、撮影と編集に関しては彼にお任せしましたね。ゴミ箱のカットは、底を抜いて、竹山が逆さまになりながら撮っていました(笑)。そして物語の振りとなる前半部分は三脚でカメラを固定して撮りつつ、後半はハンディで、男の気持ちの揺らぎを表現しました。

■描写をあえて削ぎ落とした理由

──終盤に登場するアクションシーンはパッと空気感が変わって面白かったですし、迫力満点でした。

 アクションはつい入れたくなってしまうんです(笑)。ああいうスーパースローで撮るのも、ガイ・リッチーや『キル・ビル』が好きな竹山の十八番ですね。背景が黒なのは、現地で夜に撮ったからです。照明もない田舎だからこそ、そのままの環境を生かしています。


──天然のグリーンバックだったんですね(笑)。CGかと思うくらい迫力がありました。

 全部人力で、4つの映像を合成しています。話の展開的に、通常ならもっとリアリティを持たせたアクションにしてもいいんですけど、やはり映画なので、少しぶち壊したくて。急にアクションシーンに突入して、終わってから静止画になり、セリフが流れる。そこで、観る側が意識を研ぎ澄ませて受け止めるような感覚を作りたいと考えました。

──作中で、武田監督が特に気に入っているシーンはどこでしょうか?

 アクションシーンはやはり気に入っていますが、後半で次第に追い込まれていく、尾本の表情の変化に注目してほしいですね。観た方にいろいろ考えてほしくて、脚本はギリギリまで情報を減らしたつくりにしているんです。プロット上では「なぜ靴屋が男の情報を知っているのか」というところまでしっかり設定を決めてあるんですけど、その辺りはあえて削ぎ落としています。

──個人的には、靴屋は男を粛清するために現れた、ある意味人間ではないような存在なのかな?と考えていました。

 そうとも捉えられるかもしれないですね。靴屋は男のすべてを知っているわけではなく、男が勝手に、靴屋の発言は自分の悪事について話しているものだと勘違いしているんです。「盗んでるじゃん」というのは、実際に男が靴を盗んだという現状を指摘しただけなのに、男は勝手に内面化して「小説を盗作したことをなぜ知ってるんだ!」と焦ってしまう。そういうことの積み重ねで、怪しげに見せることを意識しました。今「人間ではないのかも」とおっしゃってくださったように、いろいろと考察して楽しんでもらえたらうれしいです。

■A24のような活動スタイルに憧れる


──今作を『MIRRORLIAR FILMS』に応募しようと思ったのはなぜですか?

 やはり、著名な方々と一緒に全国で劇場公開していただけるということは魅力的でした。尾本がシーズン1の『充電人』という作品に出演していたこともあって、以前も応募したことがあったんです。選出していただいたという連絡は、家族と近所の商店街を歩いているときにいただいて。内心叫びたかったんですが、人混みの中だったので我慢しました(笑)。かみ締めるように喜びつつ、すぐメンバーに連絡しましたね。

──今回『MIRRORLIAR FILMS』で『KUTSUYA』が上映されることで、今後の作品制作にどんな影響がありそうですか?

 実は『KUTSUYA』のような作品って、僕たちとしては珍しいんです。普段はもっとコメディ要素が強い、スピード感のある作品が多くて。今回を機に「このチームは次にどんな作品を作るんだろう」と興味を持っていただけると思うので、そういう意味では軽くプレッシャーのようなものを感じていますね。今はこれから撮る作品の脚本段階なんですが、やはり『KUTSUYA』とその次に撮った作品の経験を意識した内容になっています。

──今後の目標はありますか。

 かなり大きなことを言ってしまいますが、A24のような形は理想かもしれないです。自分たちでいろんなジャンルの作品を作って、1つの配給のように発信していく。そんなスタイルに憧れますね。

──ありがとうございます。最後に、劇場で観てくださる方にメッセージをお願いします。

 ほかの4作品も本当に素晴らしくて。加藤シゲアキさんは小説も書かれているだけに展開が見事でしたし、加藤浩次さんも芸人さんならではの言葉のチョイスに魅せられました。全作品、奇想天外ながらも、その中にメッセージがしっかりあると感じます。短い時間の中で日常では味わえないドキドキとワクワクを体験していただいて、現実に戻ったときに少しでも観客の皆さんにプラスの変化があるとうれしいです。

『MIRRORLIAR FILMS Season7』は、5月9日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定上映。


『MIRRORLIAR FILMS Season7』本予告

取材・文:岸野恵加

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