舞台俳優・香月彩里、『ヒューマンエラー』で映画監督に初挑戦 “AIオレオレ詐欺”のリアルな描写はどう生まれた?
P R: MIRRORLIAR FILMS PROJECT

クリエイターの発掘・育成を目的に、映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』。これまで俳優や漫画家、ミュージシャンなど総勢47名のクリエイターたちが、個性的な短編映画を発表した。そんなプロジェクトも新たなステージを迎え、さらにバラエティに富んだ短編映画が集まった。今回クランクイン!では、シーズン7を彩る5作品の監督にインタビューを実施。第5回目は『ヒューマンエラー』の香月彩里監督に、映画制作に挑戦するきっかけや本作の注目ポイントをネタバレありで語ってもらった。(※以下、ネタバレを含みます。ご了承の上、お読みください)
■舞台俳優が映画作りに魅了された理由
──香月さんはこれまで、主に舞台やミュージカルを中心として俳優として活動してこられましたよね。映画制作を始めたのは何がきっかけだったんでしょうか。
私は舞台の自主公演を年に1回やっていたんですが、コロナ禍でできなくなってしまって。「映像でなら面白いことができるかな」と思って、架空の映画の予告編を作ってはInstagramにアップしていたんです。それを見た人たちから「この作品を実際に見てみたい」と言ってもらったことがきっかけでした。映像関係の知り合いも全然いないので、どんなスタッフが必要なのかさえ、最初は全くわかっていませんでした(笑)。
──『ヒューマンエラー』が初の監督作でしたが、すぐに映像制作の楽しさに魅せられたのでしょうか?
そうなんです、映画作りがとても楽しくなってしまって! 舞台とは異なり、映画は遠くに住む方々にも観てもらえることに作りがいを感じました。役者のスケジュールをがっちり拘束せずとも制作できることも魅力でしたね。そこからいろんな映画を観るようになって、「映画って面白いな」と没頭していきました。ビリー・ワイルダーの作品がすごく好きで、私もあんなふうに、コメディでありつつジーンとするような感覚の作品を作りたいと思っています。
──『ヒューマンエラー』はAIオレオレ詐欺を題材としています。AIはまさに今世間をにぎわせているホットなトピックですが、リアルに描かれている印象を受けました。
アメリカに住む姉と、実際に「AIの音声詐欺が流行っているから、合言葉を考えたほうがいいかもしれない」と話したのが始まりでした。大人が真剣に合言葉を考えている姿がすごく面白くて。そこから「主人公がAI詐欺に引っかかって、一生懸命合言葉を考えている様がメインのシーンになったら面白いかな」とイメージしていきました。
──ちなみに香月監督は、次回作『なりすま師』でもAIを題材としていますよね?
はい。本当は『ヒューマンエラー』を作るときに、AIの進化により失業し、AIになりすましてる人を描くのも面白いかなと考えていたんです。でも、それだと15分の尺には収まらなくて。実際にそれを描いてみたのが『なりすま師』ですね。もともと、白黒はっきり付けられないことや、答えが限定できないものをテーマにしたいと考えていたので、AIの進化には関心を高く持っています。
■雰囲気や空気感で兄妹感を出したかった
──昭彦役の大重わたるさんと麻里奈役のエリザベス・マリーさんへは、どんなご縁でお声がけしたんですか?
わたるさんは2年前、舞台『千と千尋の神隠し』でご一緒したんです。わたるさんは舞台上の姿も面白いんですが、バックステージでの姿がとても素敵なんですよ。その頃から「私が映画を作るときは、わたるさんに主演をお願いします」と話していました。そしてストーリーを本格的に考え始めてから、「これは絶対に妹がいたほうがいいな」と思って。
マリーちゃんとはこれまで何度も共演していて、私の架空の映画予告編を観て「いつか出してね」と言ってくれていたので、声を掛けました。
──初めての映画撮影ということで大変なこともあったと思いますが、印象的だったことはありますか。
昭彦が自動販売機でお釣りを探すシーンがあるんですが、本当はもっとレトロな自販機で撮影する予定だったんです。ところが撮影の日にいざ向かうと、撤去されてしまっていて…。急いで別のところを探して撮ったんですが、あのハプニングは忘れられないですね。
──それは大変でしたね…。香月さんはキャストとしても出演していますが、意識したことは?
合言葉を作ることなんて、普通に考えたら絶対に仕事にはならないですよね(笑)。はちゃめちゃなことを言ってるんだけど、そこに納得感を持たせるような巻き込み型の人柄が必要だなと思い、私が演じた幸福あかりはそんな存在に見えるように意識しました。
──なるほど。監督としてこだわったのはどういう部分ですか?
編集では、わたるさんの面白い部分と、孤高に見える雰囲気のどちらにも偏らないことを意識していました。ほぼ2人への当て書きなので、マリーちゃんも含め、細かい演技のディレクションはほぼしていないんです。時系列や過去などキャラクターの共通認識をしっかり整理して、あとは2人に任せました。顔が似ていない分、雰囲気や空気感で兄妹感を出したかったんですが、2人ともそれをしっかりくみ取ってくれましたね。
■自分の感覚が“届いた”ことがうれしかった
──『ヒューマンエラー』を『MIRRORLIAR FILMS』に応募したのはなぜですか?
そもそも『MIRRORLIAR FILMS』に応募することを目標として作った作品なんです。映画制作を始めたときに、妹が「こんな企画があるらしいよ」と教えてくれて、「15分なら私にも作れるかな」と考えたことが始まりでした。プロジェクトのどこにも偏っていないコンセプトにすごく魅力を感じて。選出のご連絡をいただいたときは羽田空港でのアルバイトの休憩中だったんですが、そのまま飛行機と一緒に飛び立って行ってしまいそうなくらい、本当にびっくりして、パニックに陥りました(笑)。
──(笑)。映画監督としてのご自身の手腕にも自信が持てたのでは?
それもそうですが、何より自分の感覚がちゃんと“届いた”ことがすごくうれしかったですね。わたるさんの存在感を素敵だと思っていた感覚など、「自分が感じたことを信じていいんだ」と思えたことが、大きな喜びでした。
──『MIRRORLIAR FILMS』への参加は、今後の作品制作にどんな影響がありそうですか。
今までは企画やプロデュース、キャスティングなどを全部1人でやってきたんです。今回はそれらをプロの方が一緒に担ってくださることで、大きな船に乗せていただいたような感覚と、「こんなに広がっていくんだ」という感動がありました。今後もご一緒できるように頑張りたいですね。やっぱりコメディが大好きなので、鑑賞中にニヤニヤして楽しんでもらえるような映画を作っていきたいです。
──最後に、劇場でご覧になる方にメッセージをお願いします。
今回のラインナップには、誰かと話したくなるような作品がそろっていると思います。純粋に楽しんでいただきつつ、自分がどう解釈したかを話して楽しんでいただけたら、とても嬉しいです。…ちなみにこれはネタバレなんですが、ラストシーンで麻里奈が亡くなっていたということはわかりましたか?
──ああ! そうなのかもしれないと思いつつ確証が持てなかったのですが、やはりそうなんですね。
はい。昭彦がAIとわかりながらも「どうか妹であってくれ」と思いながらしゃべり続ける姿を描くことで、AIに憎しみを持っている人がAIに救われているような構図を書きたいとイメージしながら、脚本を書きました。でも阿部(進之介)さんには「え、あれって死んじゃってたの?気付かなかった!」と言われて、阿部さんの解釈を伺い、観る人によって見方、感じることが全然違うんだなと思ったんです。こんなふうに誰かと解釈を共有することで、何倍も楽しめると思います。
『MIRRORLIAR FILMS Season7』は、5月9日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定上映。
(C)2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
取材・文:岸野恵加
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