『エルピス』眞栄田郷敦に注目集まる! 高い演技力で“拓朗の変化”を見事に表現
12月26日(月)に最終回を迎える話題のドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系/毎週月曜22時)で、眞栄田郷敦の演技が大きな注目を集めている。本稿では、『エルピス』のこれまでを振り返りながら、眞栄田のすごみをひもといていきたいと思う。(文=菜本かな)
【写真】序盤の“坊っちゃんスタイル”から変化がすごい! 『エルピス』での眞栄田郷敦
■拓朗の傷と向き合ったような演技
『エルピス』で、変わらない不気味さを体現しているのが浅川恵那(長澤まさみ)だとしたら、変わっていく恐ろしさを担っているのが岸本拓朗(眞栄田)だ。アナウンサーの恵那は、どんなことがあっても、テレビの前に立つと爽やかな笑顔を浮かべ、不本意なニュース原稿も淡々と読みこなす。対して、拓朗は分かりやすくどんどん変化していく。そのため、彼が変わっていくたびに、恵那の変わらなさがより不気味に見えてくるのだ。
序盤は、拓朗のことを恵まれた存在だと思っていた。弁護士の両親のもとに生まれ、エスカレーター式で名門大学に進み、大手テレビ局に就職。この男は、挫折を経験したことがないのだろう。だから自己評価が高くて、上司からパワハラまがいの叱咤(しっせき)を受けても、“機嫌が悪いんだな”とスルーすることができるのだろう、と。
しかし、後半に近づくにつれ、拓朗が抱えてきた“闇”が明らかになる。中学時代、親友がいじめられていたのに、裏切ってしまったこと。母親・陸子(筒井真理子)に相談しても、いじめの主犯が学年で一番の権力者の息子だから…とスルーされてしまったこと。
第4話で、その過去を村井喬一(岡部たかし)に吐き出したシーンは、グッと引き込まれた。鼻水が出ても、唾が垂れても、“悔しい”という気持ちを思い切り吐き出す。眞栄田が、全身全霊をかけて拓朗の傷と向き合い、拓朗として生きていることが伝わって、胸が熱くなった。
きっと、正義の味方である(はずの)弁護士の母が、拓朗にとって最後の希望だったのだろう。その母に裏切られたことで、彼はこの世界に絶望してしまったのかもしれない。その過去を踏まえて序盤のシーンを見ると、「バカ、クズ、カス、ボケ、能なし!」とののしられてもポカンとできてしまうのは、恵まれてきたからではない。社会を、世間を、大人たちをシャットダウンしてきたからだということが分かる。
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