上田竜也「昔は大魔王みたいな性格だった」 KAT-TUNのために始めた挑戦が夢を広げる道標に
構想から約10年もの月日を経て、自身初となる小説『この声が届くまで』(KADOKAWA)を書き上げた上田竜也。あるバンドが憧れの武道館を目指して突き進む姿を描く本作は、仲間と過ごすことの楽しさや心強さ、仲間と一緒だからこそ見られる景色が詰まった熱い1冊として完成した。執筆に取り掛かった10年前の衝動。書き終えてみて、「やっぱり僕は、仲間が好きなんだな」と確かめた愛情。「味方だと思っている」というファンの存在も力にしている上田が、本書に込めた思いや、これからの夢を語った。(取材・文:成田おり枝/写真:小川遼)
【写真】横顔も美しい! 上田竜也の撮り下ろしカット(全3枚)
■原動力となったのは“反骨精神”
本作は、世間から注目されないまま10年が過ぎ、そんな中でメンバーの1人マサが脱退して窮地に立たされていたバンドグループ“zion(シオン)”の話だ。学生時代からの仲間であるメンバーの龍、ヒロト、誠一郎、毅志は、マネージャーの光、幼なじみの七海と共に最後の望みをかけて一念発起。売れるために団結力を高めていくが、彼らの前にさまざまな困難が立ちはだかる――。
アーティスト業と両立させながら、zionのたどる旅路を書き上げた上田。書き終えた時の心境を、「終わったな…と。達成感がありました」と回顧する。執筆に乗り出した10年前は、KAT-TUNの3人目の脱退が決まった時期だったという。
「小説にしようと決めていたわけではなく、とにかく物語を書き始めて。そこからアニメや実写の作品になって、自分たちで演じたり、グループで主題歌をできたら理想的だなと思っていました。待っていてもしょうがないので、動かないといけないという思いでした」と語るように、KAT-TUNのメンバーとして「自分がもっと何かやれることはないか?」と湧き上がる情熱がスタート地点だった。
コツコツと続けたものの、「今は他のことを勉強した方がいい」という事務所からのアドバイスで執筆を中断したこともあった。「僕は基本的に、一度始めたことを自分からやめることはしない人間です。物語を書き始めたのだから、絶対に最後までやり遂げて届けたいという気持ちがありました。中断した当時はとても悔しかったですね。負けず嫌いな性格もあって、諦めてたまるかという思いを持ち続けていて、ここ数年で仕事の体制が変わり、また始められるのではないかと感じて執筆を再開しました」と反骨精神が原動力に。
「主人公の龍は、ほぼ僕」とほほ笑む上田だが、どんな苦難にも負けずに立ち上がっていく主人公が魅力的に輝いているのは、上田自身の“諦めない力”がたっぷりと込められているからに違いない。
小説『この声が届くまで』表紙デザイン
zionの奏でる音楽が流れてくるような小説だが、「BGMを流しながら書くことも多いです。『このシーンにはオルゴールの音楽が合うな、ストリングスの入った音楽が合うな』と、シーンに合った音楽を流したり。音楽は聴くのも、届けるのも好きです。僕にとって音楽は、とても大きなもの」と上田の執筆スタイルも音と密接なつながりを持っている。「ツアーの帰りの飛行機や新幹線で書くこともよくありました。ガーッと集中して書くので、1時間や2時間はあっという間。『あれ、もう着いちゃった』と思ったり」と没頭して物語に向き合った。
主人公の龍と周囲のメンバーとのにぎやかな会話や、ぶつかりながらも友情を確かめていく過程など、青春のきらめきが生き生きと描かれている。上田は「僕自身はそれぞれのキャラクターを熟知しているので、コイツがこういうことを言ったらコイツがこう言ってくるよなと、アイツらのバカなやり取りを書いているのはすごく楽しかった」とキャラクターに愛情を傾けつつ、「夜の学校のプールに忍び込んだり、花火大会に行ったり、自分がそういう青春を過ごしてこなかったので『やってみたかったな』と思うようなイベントも盛り込んでいます。僕は男子校出身で、男女一緒になって過ごすこともなく、殺伐としていたので(笑)。こういった青春っぽいものは絶対に入れたかった」と憧れも詰め込んだ様子。「僕は漫画が大好きで、漫画を読んできた経験を生かしているところも多いにあります」と語る。
龍は「お前らとならできると思っている」とメンバーを信じ、彼らと幸せになりたいと夢を追いかけていく。どの瞬間からも仲間と過ごすことの楽しさ、仲間がいることの心強さがあふれ出すような物語を書き終えて、自身の気持ちを再確認することもあったという。「書き終えてみると、僕ってやっぱりこういう人間なんだと思うことはありました。1番感じたのは、やっぱり僕はチームや仲間が好きなんだなということ。仲間と夢に向かって、それをかなえていくことが好きなんだなと思いました」。
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