加藤浩次「善悪をはっきり決めることに違和感があった」 初監督作『Victims』に込めた思い
P R: MIRRORLIAR FILMS PROJECT

クリエイターの発掘・育成を目的に、映画製作のきっかけや魅力を届けるために生まれた短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS(ミラーライアーフィルムズ)』。これまで俳優や漫画家、ミュージシャンなど総勢47名のクリエイターたちが、個性的な短編映画を発表した。そんなプロジェクトも新たなステージを迎え、さらにバラエティに富んだ短編映画が集まった。今回クランクイン!では、シーズン7を彩る5作品の監督にインタビューを実施。第4回目は『Victims』の加藤浩次監督に、初監督作品への思いや見どころを語ってもらった。
■映画に没頭していた駆け出し芸人時代
──加藤さんは今回が初監督作品となりますが、もともと映画はとてもお好きだったそうですね。
なんでも観てきましたね。第1期は高校時代。映画が好きな親を持つ友達からビデオをいろいろ貸してもらうようになって。第2期は、飲み屋でバイトしていたら映画好きの客に「おい浩次、映画好きなのにヒッチコック全部観てないのか?」って言われて、腹を立てて(笑)。芸人として駆け出しで全然仕事がない時期で、バイト終わりに映画を2、3本レンタルして帰っていました。フランシス・フォード・コッポラ、デイヴィット・リンチあたりは特に好きです。
──これまでにメガホンを取ろうと思ったことはあったんですか?
具体的に「こういうものを撮りたい」というイメージは全然なかったんですけど、いつか撮りたいとは思っていましたね。僕が映画好きというのを知っていただいていたようで、『MILLORLIAR FILMS』の制作チームからマネージャーにお話をいただいて。「ぜひやってみたいです」とお返事しました。
──『Victims』は一見コメディでありながら、人間を様々な角度から切り取っていて、個人的には「加藤さんがこういう作品を撮るんだ」という驚きがありました。まずどういったところに着想を得たのでしょうか。
実際に、パーキングエリアで他の車が邪魔で出づらいという経験を何度かしていて。「邪魔くせえな」とイラッとするじゃないですか。そういうシチュエーションでどういうドラマが生まれるか、というところから考えていきました。揉め事って、片方が明らかに悪くても、俯瞰で見ると実は悪くなかったりすることってよくありますよね。でも本人は「自分は間違っていない」と強く信じ込んでいたり。世の中で善悪をはっきりと決めようとすることに、違和感がずっとあって。正義を謳っていても人を傷つけている場合もある、という関係性を描いてみたかったんです。
■観客に自由に楽しんでほしい
──まさに「正しさとはなんだろう」と考えさせられました。キャスティングはどのように?
矢本(悠馬)くんは『室井慎次 生き続ける者』で共演して、めちゃくちゃいい役者さんだと思ったんです。奥野(瑛太)さんは『Victims』の脚本をバーっと書いていた頃に観た『すばらしき世界』で、「この人すごく引っかかるな」と思って。そのあと『グッバイ・クルエル・ワールド』も観て、素晴らしい俳優さんだなと思い、面識は全くなかったんですがオファーさせていただきました。田辺(桃子)さんはスタッフが推薦してくれて、すごくいいお芝居をしてくださいましたね。ダイハツ役の子役・嶋田(鉄太)くんはオーディションで。彼もいい表情を見せてくれました。
──そして『めちゃ×2イケてるッ!』で共に切磋琢磨した、30年以上の仲の雛形あきこさんも出演されています。
「どうせ変なことやらせるんでしょ?」って言いながら引き受けてくれました。現場では「監督!これでいいですかー?」みたいにいじってきて、恥ずかしかったですね(笑)。でも雛形はすごく頼もしい存在で、たくさん助けられました。皆さん僕が初めて(の監督)だとわかっているので、スタッフも演者も何も言わなくてもバッチリ動いてくれて、すごく支えていただきました。
──加藤さんが『Victims』で特に気に入っているシーンは?
昴(矢本)がいすゞ(田辺)を責め立てるところがすごく好きですね。あとラストシーンも気に入っています。直前まで父とわんわん泣いていたダイハツが、走り去る車の中ではケロッと飴を舐めている。残された3人はただ可哀想な親子としか思っていないと思いますが、どこに本心があるのか、本当はどこまで想定していたのか。観客の方に自由に考えて楽しんでほしいという、この作品の意図がよく出ていると思います。ちなみにカメラワークはグザヴィエ・ドランをイメージしていたんですが、誰にも伝わらなかったようで。加藤シゲアキくんにも「全然気づかなかったです」と言われました(笑)。
──(笑)。ちなみに個人的には、コミカルなパートの会話のテンポ感や怒ってキャラクターがまくし立てる様などに、バラエティ番組で暴れる加藤さんを連想したんです。そこは意図したのでしょうか?
そうですか! そこは全然意識してなかったです(笑)。役者さんにも特にディレクションはしていなくて。奥野さんに「もうちょっと声を張ってください」ってリクエストしたくらいかな。皆さん無意識にイメージしてくださっていたんですかね(笑)。
■半分に削るのが本当に大変だった
──撮影は真夏の東海市で行われたそうですね。
東海市役所の前で撮影したんですが、真夏でめちゃくちゃ暑かったです。でも東海市の方々やボランティアの方がすごく協力的で、一生懸命助けてくれました。東海市は名古屋のベッドタウンなのかと勝手にイメージしていたけど、工場が多かったり、独自で文化圏が成立していて、すごく住みやすそうな面白い街でしたね。本当は最初の空撮シーンで、東海市の街をドローンで一望してから車に寄っていきたかったんです。ラストも東海市の工場の夕景を映したくて撮影していたけど、尺が足りなくて泣く泣く削ることに。完成してみたら、道端のワンシチュエーションで終わってしまったので、東海市の景色が全然映っていない作品になってしまって(笑)。そこは東海市の方々には本当に申し訳ないですね。
──今回監督に初挑戦してみて、手応えはいかがですか。
本当に難しくて、映画監督として何作品も残している方は本当にすごいと思いました。あらゆる監督がショートムービーからキャリアを始めるのは「なるほど、こういうことか」と納得もして。今まではただ映画を観ている側で好き勝手言っていたけど、見方が全然変わりましたね。最初は撮影カットをつなげたら、本編が30分くらいになってしまったんです。そこから半分に削っていくのが本当に大変で。編集の塩谷(友幸)さんのお家に3回くらいお邪魔して詰めていきました。
──またメガホンを取ることもありそうですか?
お話をいただけるのであれば、今回の反省を踏まえてぜひやってみたいですね。今回の『Season7』は5作品ありますが、ショートムービーでは小さな世界から広い世界までいろいろなことが表現できるという、振れ幅の大きさを堪能できると思います。ぜひ多くの方に楽しんでもらいたいです。
『MIRRORLIAR FILMS Season7』は、5月9日より東京・ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国の劇場で2週間限定上映。
(C)2024 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
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