井上雄彦インタビュー、ガウディとのコラボから人気漫画の実写化までを語る
ガウディとのコラボ。その先には新たな作品への題材は具現化されているのだろうか? そんな疑問には「ないんですよ(笑)」と即答。というのも「僕が何かに取り掛かるきっかけは“縁”だと思っているんです。自分の中で一番中心に位置しているものが『バガボンド』なのですが、その流れの中で、親鸞だったり、伊勢神宮の話につながってきていて、ガウディも同じ流れの中にあると感じています。だからガウディとのコラボによって、また何か縁があるかもしれませんが、自分から“これをやってみたい”というスタンスではないんです」とその真意を説明してくれた。
題材には“無”であるという井上氏だが、時間という抽象的なテーマには興味を持っているという。サグラダ・ファミリアはガウディの死後も建造中であるということにも、色々と考えさせられる部分があるのだそうだ。『バガボンド』の連載は生きてるうちに完結するんでしょうかというメールをいただいたり、もし自分が途中で死んだらサグラダ・ファミリアみたいに誰かが続けて書いたりするのかなって冗談で考えたり(笑)。時間ってすごく面白いと思うんです。『SLAM DUNK』も短い期間の話なんですが、10代っていろいろあるからすごく細かく描きたいって思いもあったし、ゆったり流れる時間の良さもありますしね。密度によって感じ方が変わっていくから面白いんだと思うんです」。
そんな井上氏に昨今の人気漫画の実写映画化について意見を求めると「僕には他人事ですね」と笑顔。「それぞれ考え方があるので、肯定も否定もしませんが、僕は漫画の中で、キャラクターや世界がすでに命を持って存在しているものだと思うので、同じ名前で『どう見ても違うよね』というものを作られるのは抵抗があります。まったく別物と考えるならいいのでしょうが、今のところ僕はそういう風には考えられないので」。
確かに井上氏の描き出す漫画のキャラクターは唯一無二の世界観があり、多くの人に感動や活力を喚起するほど魅力的だ。「僕はどんな人物を描く時にも、生きていることを肯定したいという視点は入れるように心がけています。エピソードや人物を描く際、負の部分を持ち合わせているのは当然なのですが、最後にはみんな肯定したい。そういう想いはあります」。この想いこそが、多くの人を惹きつける作品を世に送り続ける根幹なのかもしれない。(取材・文・写真:才谷りょう)
「特別展 ガウディ×井上雄彦-シンクロする創造の源泉-」は7月12日~9月7日まで森アーツセンターギャラリー(東京・六本木)にて開催中。
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