東京国際映画祭で出会った“運命の5本” 『ミッドサマー』から隠れた傑作まで
■283分の衝撃『停止』
『停止』 (C)Indie Sales
「多分一番短い映画だと思います(笑)」と出演したマラ・ロペスが言うように、一般的な映画の概念を超える長尺で撮るのがフィリピンの鬼才ラヴ・ディアス監督。これまで、489分(8時間9分)の『痛ましき謎への子守唄』や、338分(5時間38分)の『昔のはじまり』など、観客の膀胱とお尻を試すような作品を世に放ってきました。
今回の『停止』は、近未来SF。火山の噴火で太陽が隠された2034年の東南アジアが舞台で、白黒で物語が展開していきます。太陽が当たらず食糧難のため、食べ物は配給制。さらに、独裁者が専制政治を行い、ドローンが国民を監視し、多くの民衆の血が流れているというディストピアものです。
モノクロ、長回しにも関わらず、283分が終わる頃には、もう1度繰り返して上映されると言われても、苦でなく、むしろ大歓迎な出来栄え。ロドリゴ・ドゥテルテ大統領への不満が溢れる現代と、かつて植民地だった過去のフィリピンを思いながら、未来を考える。そんな国際映画祭に相応しい作品でした。日本公開未定。
■とんでもないものを見てしまった『Sisters』
『Sisters』 (C)2019 SAHAMONGKOLFILM INTERNATIONAL CO..,LTD. ALL.RIGHTS
「なんだこれは…!」。衝撃で、連日の映画疲れも吹っ飛びました。予告編では割と邦画に近い湿度の高いホラーのように見えるのですが、今までの概念を覆される程の謎の爽快感が作品を包みます。ジャンルは、ホラーアクション。
『Sisters』は、悪魔ハンターとしての能力を身につけた姉と、か弱く、悪魔たちにつけ狙われる妹を巡る物語。驚いたのが、その悪魔たち。首に内蔵がくっついたような、驚きのビジュアルで、ホタルのように内蔵を緑に光らせ、飛んでくるのです。しかも、その顔が、加工アプリのように美人。
後々調べたところ、マレー半島に伝わる「ペナンガラン」という妖怪がモチーフになっていて、世界の恐怖の幅広さを思い知らされました。他国の知らないことを新たに知ることができるのも、国際映画祭の素晴らしい点です。こちらも残念ながら日本未公開。
■音楽映画はこうでなくちゃ『Blinded by the Light(原題)』
『 Blinded by the Light(原題)』 (C)2019 Warner Bros.Entertainment Inc.All Rights Reserved.
ポニーキャニオン配給で、2020年に公開が決まっている『Blinded by the Light(原題)』は、ロンドン郊外で暮らすパキスタン移民の高校生ジェイブドが主人公。田舎町や、パキスタンの伝統、宗教、差別に押しつぶされそうな毎日を送るジェイブドが、米ミュージシャン、ブルース・スプリングスティーンに出会うことで、自分で人生を動かしていくストーリーです。
思春期に素晴らしい音楽に出会ったとき、まるで世界は自分だけのもののように感じたことはありませんか? 鬱屈した毎日が急にカラフルに見え、暗闇でうずくまっていた自分の理解者をようやく見つけたあの感覚。思わず走り出したくなる疾走感が、この映画に確かにあります。
そんな美しい映像と青春の中で、貧困や差別の社会問題など現実問題から目を逸らさず、無視できない人生の不条理も浮き彫りにしていくバランスの巧みさに唸ります。イギリス在住のパキスタンの血が流れる米ミュージシャン好きの高校生からは、見た目やルーツのみで人を判断する愚かさを改めて感じさせられました。
【「第32回東京国際映画祭」概要】
日程:10月28日(月)〜11月5日(火)
場所:六本木ヒルズ、EXシアター六本木(港区)