なぜ韓国は“フェミニズム映画”が多い? 『キム・ジヨン』『はちどり』などを辿る

特集・レポート
2020年11月3日 12:30

■韓国で増える“女性監督のフェミニズム映画”

 近年の韓国映画界では、女性監督によるフェミニズム映画が数多く製作されています。チョン・ジュリ監督による『私の少女』(2014年)は、主人公が警察官として港町の僻地へと派遣され、そこで虐待を受ける少女を庇護します。主人公がレズビアンであることがやがて明らかになりますが、閉塞的な地方の環境をひいては韓国社会の縮図として仮構し、女性であることや性的マイノリティであることの桎梏(しっこく)を、静謐な基調のなかに浮かび上がらせます。

 女性の就労問題を主題として扱う珍しい映画は、プ・ジヨン監督による『明日へ』(2014年)です。この映画は、2007年に起こった非正規雇用労働者によるストライキを基にしています。

 イ・オニ監督によるサスペンス劇『女は冷たい嘘をつく』(2016年)は、それぞれに抑圧されているシングルマザーの女性と外国人労働者の女性が悲劇に巻き込まれていきます。そんななかでも、クライマックスで海に飛び込んだ二人の手が繋がれようとする描写は、過酷な状況下における女性の連帯の可能性を垣間見せています。

『はちどり』 写真提供:AFLO
 『はちどり』でも、共に左利きである主人公と先生の左手同士で交わされた指切りによって、女性同士の特別な紐帯を象徴的に描いていました。

■映画は女性たちが思いを共有できるメディア

 一方、日本では『キム・ジヨン』のような作品ほどには、明確にフェミニズムの看板を掲げる作品は少ないように思われます。しかし、『キム・ジヨン』と同日に公開された日本映画『本気のしるし』もまた、ある部分ではフェミニズム映画と言えます。

 主人公の女性が男性原理社会のなかでいかに抑圧され、影響を及ぼされたかが、中盤でわかるようになっているからです。男女が反転する物語構造もまた、ジェンダーによる差異を露わにします。大切なのは、わたしたちが批判的な目を持ってそこに描かれていることの意味づけの作業を行っていくことなのではないでしょうか。

 一見、性差別の問題が前景化されていないような映画でも、必ずその萌芽はどこかにあるはずです。それは、ひいては自らが生きる日常生活における気づきをより鋭くしていくものでもあります。女性たちが同じ思いを共有し、語り合うことのできる映画は、フェミニズムにとって重要なメディアの一つだと信じています。

【『82年生まれ、キム・ジヨン』概要】
全国公開中
出演:チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン
監督:キム・ドヨン
(C)2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved.

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児玉美月(ライター)

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