『落下の王国』が示す“現代へのメッセージ” 絶景・石岡瑛子の衣装・映画愛を紐解く

特集・レポート
2020年12月7日 18:30
『落下の王国』が示す“現代へのメッセージ” 絶景・石岡瑛子の衣装・映画愛を紐解く
『落下の王国』  写真提供:AFLO

 物語と現実の間には常に境界線が存在している。けれどもその中に“物語の中の現実”と“物語の中の物語”が存在し、その境界線が曖昧になった時、自由を携えた物語は現実との境界線すらも飛び越えていく。ターセム・シン(本作のクレジットでは“ターセム”名義となっている)という映像クリエイターが2006年に手掛けた長編監督第2作『落下の王国』は、まさにそういう映画である。(文=久保田和馬)


■自殺を試みる青年が、少女と出会い…

 撮影中の事故で半身不随になり生きる意欲さえも失ってしまったスタントマンの青年が、入院先の病院で腕を骨折した少女と出会うという“物語の中の現実”。そして自殺を試みようと考える青年が、少女を利用するために語りかける“物語の中の物語”では、ある架空の世界を舞台に復讐に燃える勇者たちの物語が展開していく。

スタントマンのロイ・ウォーカー(リー・ペイス) 写真提供:AFLO
 少女の豊かなイマジネーションによって、“物語の中の現実”の登場人物たちに置き換えられて視覚化されるそれは、単なる“劇中劇”という古くから多用されてきた手法を超越し、幻想的な世界を構築していく。しかもその世界が、我々鑑賞者側の生きる現実世界に存在しているありのままのロケーションの中で繰り広げられていくのだから、なおさら三者の境界線はおぼろげなものへと変容していくのだ。

 実はこの映画、80年代にブルガリアで製作された『Yo ho ho』という作品を基にした、言うなればリメイク作品である。同作は日本では紹介されていない作品ではあるが、ブルガリアのアカデミー賞で脚本賞などを受賞し、モスクワ国際映画祭でも受賞歴があるなど、それなりに評価の高い作品だ。とはいえ、やはりリメイクと聞くと、少なからずオリジナリティが欠如しているようなネガティブなイメージが頭を過ぎってしまうことは否定できない。

完膚なきまでにこだわり抜かれた画面 写真提供:AFLO
 ところが『落下の王国』には、それを補うだけの説得力があると断言できよう。なぜなら病院を舞台にしたオリジナルの基本的なプロットを踏襲しながらも、ターセムだから実現することができた完膚なきまでにこだわり抜かれた画面によって、まるで新しい作品へと生まれ変わっているのだから。

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久保田和馬(ライター)

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