ジブリにとって“魔女”はどんな存在? 『魔女宅』『ハウル』名作たちから考える

特集・レポート
2020年12月30日 06:30

■決定的な影響を与えた『雪の女王』

『雪の女王』 写真提供:AFLO
 スタジオジブリの中心人物といえる高畑勲監督と宮崎駿監督。二人はもともと、日本のアニメーション界を代表する東映動画に在籍していた。当時、高畑は宮崎にロシアのアニメーション作品を紹介し、宮崎はその豊かな表現に心酔したという。なかでも、『アナと雪の女王』(2013年)の原案ともなったアンデルセンの童話を基にしたレフ・アタマーノフ監督の名作『雪の女王』(1957年)は、両者に決定的な影響を与えることになった。そこで描かれる純粋な心や、人が人を想う強い感情は、ジブリ作品の大きな要素ともなっている。

 そんな『雪の女王』にも魔女が登場する。主人公である少女ゲルダは、雪の女王にさらわれてしまった幼馴染の男の子カイを探す旅に出る。すると道の途中で寂しがり屋の魔女が現れ、ゲルダにカイの思い出を忘れさせることで、可憐なゲルダをいつまでも自分の魔法の家と庭にとどめておこうとするのである。高畑、宮崎コンビが後に作り上げた『パンダコパンダ』(1972年)の舞台となる竹やぶの中の一軒家は、そんな魔法の家そっくりに描かれている。『雪の女王』への憧れを、二人は作品のなかでかたちにしたのだ。

 それだけでなく、このコンビは東映動画時代の『太陽の王子 ホルスの大冒険』(1968年)でも『雪の女王』へのオマージュを行なっている。そこに登場するヒロインの名は、ゲルダを想起させる“ヒルダ”。彼女は「悪魔の妹」という呪われた出自を持つ少女であり、優しい心を持っているのにもかかわらず、人々の暮らす村から離れて孤独に暮らしている。

『キリクと魔女』 写真提供:AFLO
 高畑は後年、この設定を彷彿とさせるフランスのアニメーション作品を日本に紹介し、劇場公開にこぎつける。それがミッシェル・オスロ監督の『キリクと魔女』(1998年)である。世の中の全てに疑問を持つ男の子キリクは、村のみんなを苦しめているという魔女に会いに行こうとする。しかし、本当に魔女は悪い存在なのか。ここでは『太陽の王子 ホルスの大冒険』と同じく、悪い存在であるとされている女性の意外な面を描いている。

■『魔女宅』では親しみやすい存在に!

 宮崎駿監督による角野栄子原作のジブリ作品『魔女の宅急便』では、魔女そのものが主人公となった。家を出て一人前の魔女になるべく故郷を飛び立った少女キキが成長していく姿を描く本作は、“魔女の力”が失われるというアクシデントを通して、一人の人間が自分の生き方に迷うという普遍的なテーマを扱っている。ここでは魔女という存在が、他の職業と同じようなものとして紹介されていて、観客にとって親しみやすいものとなっている。

興味深いのは、キキの母親との世代間ギャップ 『魔女の宅急便』より (C)1989 角野栄子・Studio Ghibli・N
 興味深いのは、キキの母親との世代間ギャップだ。母親はリウマチに効く薬を調合するなど、魔女のスキルを体得しているが、そのような知識に娘が興味を持たないことで、魔女の文化が継承されない部分があることに不満を持っているようだ。しかし、彼女の薬を大勢が求めているようには見えないことから、人々はおそらく現代のケミカルな薬品の方を選択するようになってきているのだろう。若いキキはそんな状況を無意識的にだが敏感に感じとっていて、魔女の飛行術をデリバリーサービスに利用するという、現代の文化と魔女文化に折り合いをつける道を見出すことになったのではないだろうか。

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小野寺系(ライター)

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