ジブリにとって“魔女”はどんな存在? 『魔女宅』『ハウル』名作たちから考える

特集・レポート
2020年12月30日 06:30

■おそろしい存在としての魔女も

湯婆婆 『千と千尋の神隠し』より (C)2001 Studio Ghibli・NDDTM
 宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(2001年)では、湯婆婆(ゆばーば)と銭婆(ぜにーば)という、年老いた双子の魔女が登場する。どちらも強い魔法の力を持っていて、湯婆婆は「湯バード」に変身して飛行することができる。この作品の基になっているのが、オトフリート・プロイスラーの児童文学『クラバート』である。これは、水車小屋に勤めることになった少年たちが、裏で魔法使いとして悪事を行なっている親方にこきつかわれるという物語だ。魔法のしきたりと、弱者が搾取される社会の仕組みを組み合わせた作品世界がユニークである。

サリマン 『ハウルの動く城』 (C)2004 Studio Ghibli・NDDMT
 そして、さらにおそろしい魔女が登場するのが『ハウルの動く城』(2004年)である。強大な魔力と国家の権力を裏で握る政治力をも持っているマダム・サリマンの使う攻撃魔法は、こんなものを受けたら絶対に助かりそうにないような、凄まじく不気味な演出で描かれる。この作品で強調されるのは、魔法というのが文字通り悪魔のような邪悪さや残酷さを持っているという点だ。『魔法使いサリー』や、東映動画の「魔女っ子シリーズ」など、魔女という存在がアニメーションのなかで子どもの憧れとしてポップに描かれるようになった。『魔女の宅急便』もその一つとして数えられるが、宮崎駿監督はここでその流れにカウンターを浴びせるような魔女のイメージを放ったのである。

 三鷹の森ジブリ美術館の企画展として2018年に開催された、「『映画を塗る仕事』展」では、宮崎駿監督らに多大な影響を与えたイヴァン・ビリービンのイラスト作品が展示されていた。そのなかには、スラヴ民話に登場する鬼婆のような魔女バーバ・ヤーガを描いた危機迫るようなイラストもあった。宮崎監督が取り戻したかったのは、そんな魔女や魔法の油断ならざる部分だったのかもしれない。

■『星をかった日』でも魔女が印象的

 そんな三鷹の森ジブリ美術館で定期的に上映される短編『星をかった日』は、ジブリ作品『耳をすませば』(1995年)にも登場する、井上直久が創造した世界「イバラード」を舞台とした宮崎駿監督作品だ。そこで描かれているのは、『ハウルの動く城』に登場する、王宮から追放されたという「荒地の魔女」とハウルの出会いの物語だという説もあるように、ある青年が魔女に魅入られるというストーリーである。鈴木京香が声をあてている魔女が、何度か呟く「素敵ね」というセリフが妖しくも艶かしい。大々的に劇場公開してほしいと思うくらいの濃密さと、宮崎駿監督の創造性が豊かに発揮された作品である。

12月30日(水)放送の『アーヤと魔女』(NHK総合)  (C)2020 NHK,NEP,Studio Ghibli
 このように、高畑、宮崎作品、そしてジブリに関係するアニメーション作品のなかだけでも、さまざまな魔女の姿がある。いずれもそれぞれに魅力的で示唆に富んだ存在として、われわれ観客の心をつかみ、何かを気づかせる役割を担っているように感じられる。そんな魔女たちに注目して、もう一度、これらの作品を味わっていきたい。

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小野寺系(ライター)

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