90年代描く『ボクたちはみんな大人になれなかった』が2021年にも爆刺さりする理由

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2021年11月14日 10:00

■今でも共感できる“佐藤の思い出”

 本作は、2020年の佐藤が少しずつ過去を遡っていくストーリーと、かおりと佐藤が出会った1995年から未来へ進むストーリーの2軸で展開する。

 46歳の佐藤が生きる現在は、決してきらびやかなものではなく、タバコのヤニが浮遊するようなザラついた質感で描かれる。一方、佐藤が思いを馳せる「1995年からスタートする思い出」は、金平糖のように儚くキラキラと輝く。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』より (C)2021 C&I entertainment
 過去は思いを馳せるとき、たいてい美化されている。その渦中にいるときは、気が付かない。きっと本作は誰もが持つ「思い出フィルター」を表現しているのだろう。

 あの頃――。人が当時を振り返るとき、往々にしてそこには“誰か”がいる。誰かとの何気ない日々が、現在から見てみると宝物のように煌めいて感じられてしまう。

 社会という雑踏に放り出された20代。気を抜けばすぐに人混みに流されてしまいそうな毎日で、わかっているヤツになりたくて、何かをわかろうと足掻いたあの頃。大衆をダサいとバカにしつつ、大衆に馴染めない孤独を抱えた中で、誰かと出会いたかった。それは90年代でも2020年代でも共通する普遍的な行為だろう。イタいあの頃は、恥ずかしくもあり、愛おしくもある。

 今だったらマッチングアプリやSNSで見つけられる誰かを、1995年を生きる佐藤は雑誌の文通募集で発見した。かおりが「このアーティストが最近好きでさぁ」と話せば、インプットに勤しんだ日々。アバンギャルドすぎる作品を見て圧倒されてしまったデート。本の引用文を使って、それっぽいことを言ったあのとき。大好きな彼女が発した「キミは大丈夫だよ。面白いもん」という言葉を糧に、クソみたいな毎日を乗り切ってきたこと。佐藤の思い出は、2020年代においても、涙が出そうになるぐらい共感できてしまう。

『ボクたちはみんな大人になれなかった』より (C)2021 C&I entertainment
 たいていの過去は、取るに足らないことでできている。過ぎ去りし毎日に想いを馳せるなんてダサいと思われるかもしれない。でも、そういう時間が今に繋がっているのだ。イタいあの頃を黒歴史として葬り去るのではなく、愛しめるようになったとき、人は大人になれるのかもしれない。物語の最後では、佐藤は自分の中でしっかりと答えを見つけて、歩みをすすめる。

 『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、Netflixで配信されるほか、シネマート新宿やアップリンク吉祥寺などで公開される。きっと、2021年を生きる佐藤やかおりのような若者たちは「シネコン作品はフツーじゃない?」「ミニシアターのラインナップが好きなんだよね」と言いながら、足を運ぶのだろう。

【『ボクたちはみんな大人になれなかった』概要】
11月5日(金)より、シネマート新宿、池袋シネマ・ロサ、アップリンク吉祥寺ほかロードショー&NETFLIX全世界配信開始
出演:森山未來 伊藤沙莉
原作:燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮文庫)
監督:森義仁 脚本:高田亮

3ページ(全3ページ中)

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嘉島唯(ライター)

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