90年代描く『ボクたちはみんな大人になれなかった』が2021年にも爆刺さりする理由
自分の信念を曲げて、意味もわからず頭を下げるような大人になんてなりたくない。おもしろい人間になりたくて、でもどうすればいいのかわからない。人がつくった作品を見ては、批評ばかりが鋭くなり、知識の量が自分を支えてくれると思っていた。11月5日(金)に劇場公開&Netflixで配信された映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、そんな“イタいあの頃”を過ごした人にとって、刺さって抜けない1本だ。(文=嘉島唯)
【写真】単なるサブカル映画になりさがらない『ボクたちはみんな大人になれなかった』
■“あの頃”を思い出していくストーリー
人気小説を原作とした本作は、森山未來演じる主人公・ボク(佐藤誠)が、街から人が消えた2020年の新宿三丁目で、20代を共に過ごした旧友と偶然再会したことをきっかけに、“あの頃”を思い出していくストーリーだ。2020年から1995年に向かって時間が巻き戻されていくように話が進行する。
1995年、雑誌の文通募集をきっかけに出会ったボクとヒロインの加藤かおり(伊藤沙莉)は、小沢健二という共通の音楽趣味から仲を深めていき、恋仲となる。佐藤は“普通”を嫌うかおりに認めてもらいたい一心で映像業界の末端で働くが、1999年が終わると同時にかおりとの恋愛も幕を閉じた。その後、佐藤はいくつかの恋愛を重ねるが、佐藤はいつまでもかおりを忘れられずにいる。
本作では『トリビアの泉』が一斉を風靡していた2005年や、震災直後の2011年など、さまざまな年代が舞台になるが、1番色濃く描写されているのは、かおりと共に過ごした90年代末だ。微細に描かれているので、思わず釘付けになる。
1995年とはどんな年だったのか。阪神大震災が起き、地下鉄サリン事件が発生し、Windows 95が発売された怒涛の1年だ。調べてみると、PHSもこの年にサービスが開始されたらしい。1993年にJリーグが開幕して以来、サッカーブームが続き、一方では「1999年に地球は滅びる」というノストラダムスの大予言がまことしやかに囁かれていた。
1995年から2000年に向けて動き足す5年間は、世紀末に向けて「時代が大きく変わってしまうかもしれない」という期待と不安が入り混じった時間なのだろう。
次ページ:他人事とは思えない物語に、心臓をギュッと掴まれる124分