『最愛』に寄り添う“宇多田ヒカル主題歌”のすごさ 苦しい物語に光を灯す存在に
■宇多田が手掛けたドラマ主題歌のこれまで
宇多田が担当するドラマ主題歌やイメージソングは、その楽曲を聴くことで登場人物の思いがグッと響いてくるものが多い。特に、『花より男子2(リターンズ)』(TBS系)のイメージソング「Flavor Of Life ‐Ballad Version‐」には、圧倒させられた。宇多田自身が原作漫画の大ファンだったことも相まって、道明寺司(松本潤)と牧野つくし(井上真央)の関係性が忠実に再現されていたのだ。表から見えている部分だけでなく、登場人物の奥にある心情も掘り起こしてしまうのが、彼女のすごいところ。
特に、<ありがとう、と君に言われると/なんだかせつない>という歌詞は、道明寺とつくしの関係性そのものだ。ズカズカ心に入り込んでくるちょっぴり強引な道明寺。そんな彼に、「ありがとう」なんて言われたら、他人行儀な気がして切なくなるのも納得できる。<「愛してるよ」よりも 「大好き」の方が/君らしいんじゃない?>も、まさに道明寺。けんかっ早くて大人びて見えるけど、実は誰よりも純粋な部分を持っている彼には、「大好き」という無邪気な言葉がぴったりだ。「Flavor Of Life ‐Ballad Version‐」を聴くことで、登場人物への愛おしさも増していく。
宇多田は、『花より男子』シリーズでF4が卒業してから10年後の世界を描いた『花のち晴れ~花男 Next Season~』(TBS系/以下、『花晴れ』)でも、イメージソングを担当した。1999年にリリースした「First Love」を連想させる「初恋」は、恋をする中で避けることができない“苦しみ”を、美しく昇華させてくれる。『花より男子』のつくしと違い、『花晴れ』の江戸川音(杉咲花)には、婚約者がいた。大人になったら、“初恋”の馳天馬(中川大志)と結婚する。そんな未来に、疑問を抱くことなんてなかった。だが、神楽木晴(平野紫耀)と出会い、音は本当の恋を知ってしまう。ささいなことで苦しくなって、狂おしいほどに胸が高鳴る。それでも音は、神楽木への気持ちを恋ではないと誤魔化し続けた。そんな音の気持ちを表現するかように、絶妙なタイミングで「初恋」が流れるのだ。<うるさいほどに高鳴る胸が/柄にもなく竦む足が今/静かに頬を伝う涙が/私に知らせる これが初恋と>――。
『最愛』第10話より (C)TBS
そのほかにも、『魔女の条件』(TBS系)の「First Love」や、『ラスト・フレンズ』(フジテレビ系)の「Prisoner Of Love」など、宇多田は“最愛”の存在がいるからこそ、もがいてしまう人々の心を、繊細に歌い上げてきた。『最愛』最終回では、どの瞬間に「君に夢中」が流れるのだろう。事件の真相に加えて、主題歌にも着目して最終回を楽しみたい。