一瞬の油断が死に直結…『バグダッド・メッシ』緊迫の検問シーン本編解禁 監督メッセージも到着
■サヒム・オマール・カリファ(監督)
――本作が制作された経緯を教えてください。
元々短編として制作された本作は、2015年にアカデミー賞短編実写部門の最終候補に選出されたほか、多くの国際映画祭で受賞するなど、大きな成功を収めることができました。元から長編化を目指して立ち上がった企画ではありませんでしたが、この大きな反響を受けて、プロデューサーから「非常に力強い物語だから、ぜひ長編映画にしよう」と提案をいただいたのです。
それから10年近い歳月をかけて脚本や登場人物を深く練り直し、長編として制作することを決断しました。短編をご覧になった皆様にとっても、改めて観る価値が十分にある作品に仕上げることを何よりも重視しました。
――映画の題材として「サッカー」を選んだ理由は?
イラクにおいて、サッカーは最も人気のあるスポーツの一つです。特に当時のような戦争のさ中においては、スポーツという存在が人々の心を支える極めて重要な役割を果たしていました。私自身、24年前にベルギーへ移住した際、それまでイラクでずっと続けていたサッカーをやめてしまいました。家族と⼀緒に移住でき、幸せなはずなのに、なぜか心が満たされない感覚が続いていたのです。
「何かが足りない」と自問自答を重ねて気づいたのは、自分にとってその欠けていたピースがサッカーだったということでした。サッカーをやめてしまったから、幸せを感じられなくなっていたのだと気がつきました。だからこそ本作では、サッカーが持つ魔法や、人々を動かす力そのものを描きたかったのです。
――映画のタイトルにもなっている「リオネル・メッシ選手」をモチーフとして選んだのはなぜですか?
実は映画を制作する前、私自身はメッシ選手に特別な思いがあったわけではありませんでした。ではなぜメッシだったのかというと、2009年にUEFAチャンピオンズリーグ決勝(マンチェスター・ユナイテッド対バルセロナ)があり、そこでメッシ選手が大活躍をしたからです。当時、世界で最も象徴的な選手のひとりだった彼をタイトルに据えれば、一目で「サッカーを巡る物語だ」と理解できると考えました。
ただし同時に意識していたのは、ストーリーがメッシ中心になりすぎないようにすることです。これはメッシの物語ではなく、あくまでイラクの物語であるということを常に念頭に置いて制作しました。
しかし何より嬉しい驚きだったのは、タイトルに名前を使わせていただいた後の周囲の反応でした。なんとバルセロナが公式にこの映画を取り上げて紹介してくれ、メッシ選手本人も本作の存在を知ってくれたのです。彼らが作品や、主演を務めたアフマド君のことを多くの人々へ発信し応援してくれたことには、心から深く敬意と感謝を抱いています。
――監督が考える「戦争がもたらすもの」とは何か教えてください。
イラクは常に戦争と隣り合わせの国でした。当然、戦争は即刻終結すべきものです。しかし戦争は破壊をもたらす一方で、人々や社会を大きく変革させる力も持っています。かつてヨーロッパや日本が悲惨な戦争を経て大きく発展したように、イラクにもまた、未来へ向けて変わっていく可能性があると信じています。
――日本の観客へメッセージをお願いします。
私の母国の物語を、日本の皆さんと共有できる機会をいただけたことを大変嬉しく思っています。私は常に、観客の方々が映画館を出て家に帰った後も、描かれた物語や登場人物たちに思いを馳せ、深く心に残り続けるような作品づくりを目指しています。
イラクは、子どもたちが子どもでいられる時間が短く、ヨーロッパなどの諸国に比べても、あまりに早い段階で大人になることを強いられてしまう国です。
本作をご覧になった後は、ぜひ彼らが置かれた現実や物語、登場人物の胸中に深く思いを巡らせてみてください。それこそがこの映画の核心であり、そこからきっと新しい発見があるはずです。
