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7年ぶりにウルヴァリンが帰ってくる! 出演作から見るヒュー・ジャックマンのジャンルレスな活躍【ハリウッド最前線「第6回」】

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『デッドプール&ウルヴァリン』でウルヴァリン役を務めるヒュー・ジャックマン(2024年撮影)
『デッドプール&ウルヴァリン』でウルヴァリン役を務めるヒュー・ジャックマン(2024年撮影) (C)AFLO

 米ロサンゼルスを拠点に様々なメディアで活動している映画ジャーナリスト・猿渡由紀さんの連載がクランクイン!でスタート。第6回は、『デッドプール&ウルヴァリン』でウルヴァリン役にカムバックしたヒュー・ジャックマンにフォーカスしたコラムをお届けします。

■ヒュー・ジャックマンが四半世紀にわたって演じるスーパーヒーロー

 ヒュー・ジャックマンが、明日7月24日公開の『デッドプール&ウルヴァリン』で、久々にウルヴァリン役に戻ってくる。

 ハリウッドデビュー作である『X‐メン』以来、ジャックマンは何度もこのスーパーヒーローを演じてきた。『X‐メン』の撮影が始まったのは1999年秋なので、ジャックマンとウルヴァリンの付き合いは、もう四半世紀になる。

(左から)ヒュー・ジャックマン、ライアン・レイノルズ(2022年撮影) (C)AFLO
 だが、2017年の『LOGAN/ローガン』の後、彼がウルヴァリンを演じることはもうないと、みんなが信じていた。ショッキングでドラマチックなあの映画のエンディングは、愛されたキャラクターの幕引きに、あまりにふさわしかったからだ。マーベルのトップ、ケビン・ファイギも、『デッドプール』3作目にウルヴァリンを出すという発想が出た時は、それを理由に反対したのだそうだ。だが、ジャックマンと、彼の個人的親友で主演兼プロデューサーのライアン・レイノルズのアプローチを聞いて、ファイギも賛成したのだという。

 『X‐メン』に出演する前、ジャックマンは世界的には無名だったが、母国オーストラリアでは活躍していた。シドニー工科大学でコミュニケーションを専攻し、卒業後、パースのエディス・コーワン大学で本格的に演技を学んだジャックマンがデビューしたのは、大学で最後の舞台に立っていた時。多くの俳優はオーディションを受けつつ、アルバイトでしのぐ時期を経験するものだが、ジャックマンは、驚くほどすんなりと学生からプロの役者に移行したのである。その仕事は、オーストラリアのテレビドラマ『Corelli』。彼の妻となる13歳上の女優デボラ=リー・ファーネスとは、この作品で共演して知り合った。

(C)AFLO
 続いて、ジャックマンは、メルボルンでミュージカル劇『美女と野獣』『サンセット通り』に出演。ロンドンのウエストエンドでも『オクラホマ!』に出演し、権威あるオリヴィエ賞にノミネートされた。『X‐メン』の話が来たのは、そんな時だ。アメコミを映画化するこのプロジェクトについて、妻のファーネスは、最初「ばからしい」と反対だった。しかし、パトリック・スチュアート、イアン・マッケレン、ハル・ベリーらと共演した予算7500万ドルのこの映画は、全世界で3億ドル弱を稼ぐヒットとなり、ジャックマンのキャリアを大きく変える。

 翌2001年には、ジョン・トラボルタらと共演するアクション映画『ソードフィッシュ』、メグ・ライアンがお相手のロマンチックコメディ『ニューヨークの恋人』に出演。ジャックマン主演でシリーズ化を目指したホラーファンタジー大作『ヴァン・ヘルシング』はぱっとしなかったが、クリストファー・ノーランの『プレステージ』、ウディ・アレンの『タロットカード殺人事件』、バズ・ラーマンの『オーストラリア』など、その後も優れた監督と多様なジャンルの作品で実力を証明していった。自慢の歌声をスクリーンで発揮した2012年の『レ・ミゼラブル』では、初めてオスカーに候補入り。ドゥニ・ヴィルヌーヴが監督した2013年の犯罪スリラー『プリズナーズ』でのダークで感情的な演技も、高く評価された。

 2017年には、ミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』が大ヒット。舞台でも大活躍で、2004年には『The Boy from Oz』でトニー賞を受賞、2022年にも『The Music Man』で候補入りした。スーパーヒーロー映画、恋愛映画、ミュージカル、SF、犯罪映画、どんなジャンルでも見事にこなす、非常に稀な才能を持つアーティストなのだ。

(左から)ヒュー・ジャックマン、デボラ=リー・ファーネス(2023年撮影) (C)AFLO
 私生活も非常に順調だった。愛妻家を自認する彼は、インタビューでも自分からしばしば妻についての話題を出している。ニューヨークを拠点にすると決めたのは「妻が望んだから」だし、ファッションの好みについて聞かれると、「妻が僕に何を着てほしいかで決まる。妻に『これ、あなたに似合うわよ』と言われて、『わかったよ、ベイビー』というんだ」と言っていた。夫妻が結婚25周年を迎えた時にも、良い関係を長く続ける秘訣は「正しい相手を選ぶこと。僕は、彼女と出会った時に、直感的にずっといられる人だと思った」と語っている。

 しかし、その発言から2年後の昨年9月、夫妻は破局を発表し、世間を驚かせた。「個人として成長していくための決断」とのことで、それ以上の説明はない。ふたりが育てた養子は、上の子が23歳、下の子が18歳になっていたので、親権で揉めることもない。以前からふたりの間で話し合い、そのタイミングになるのを待った上での実行だったのかもしれない。

 子供の手も離れ、シングルに戻ったジャックマンは、今また新たなスタート地点に立っているともいえる。ここまで人並み以上のことをやってきたが、彼にはまだまだ可能性があるはずだ。年齢的にも、この10月で56歳だし、私生活でも何か素敵なことが起きたりするかもしれない。とりあえず今は、大ヒットデビューが予測されている『デッドプール&ウルヴァリン』での彼を楽しませてもらおう。

猿渡由紀(L.A.在住映画ジャーナリスト)プロフィール
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「週刊SPA!」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイ、ニューズウィーク日本版などのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

文:猿渡由紀

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