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【LA在住】映画ジャーナリスト・猿渡由紀の“ハリウッド最前線” 「第1回」ロバート・ダウニー・Jr.

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ロバート・ダウニー・Jr、「第96回(2024年)アカデミー賞」の助演男優賞にノミネート
ロバート・ダウニー・Jr、「第96回(2024年)アカデミー賞」の助演男優賞にノミネート (C)AFLO

 米ロサンゼルスを拠点に様々なメディアで活動している映画ジャーナリスト・猿渡由紀さんの連載がクランクイン!でスタート。第1回は日本でも多くのファンを抱え、先日発表された「第96回(2024年)アカデミー賞」の助演男優賞(『オッペンハイマー』)にノミネートされたことでも話題の「ロバート・ダウニー・Jr.」にフォーカスしたコラムをお届けします。

■ドラッグ問題で一度はキャリアが崩壊…

 アカデミー賞授賞式が、すぐ目の前に迫った。いつものことながら結果は蓋を開けてみなければわからないものの、『オッペンハイマー』のロバート・ダウニー・Jr.の助演男優賞受賞は、確実視されている。

 それまでにも地道に活躍していたダウニー・Jr.は、2008年の『アイアンマン』で大きなキャリアのステップアップを果たし、世界的スターの一員となった。そんな彼がクリストファー・ノーラン監督の『オッペンハイマー』で初のオスカーを受賞することになるのは、まさにふさわしい。商業的にも大成功し、シリアスな人間ドラマでもある『オッペンハイマー』は、彼の過去と今を結びつけるような作品。しかも彼は、近年披露するチャンスのなかった、微妙で複雑な演技を見せているのだ。

 それは、すでに完成していたカムバックストーリーに、華やかなチャプターをもうひとつ追加することにもなるだろう。『アイアンマン』で彼を知った若い観客はあまり知らないかもしれないが、20年以上前、ダウニー・Jr.のキャリアは崩壊し、果たして立ち直れるのだろうかと思われていたのである。

 理由は、長年彼を苦しめた依存症。彼が父ロバート・ダウニー・Sr.からマリファナを教えられたのは、6歳の時。「一緒にドラッグをやる時、父は僕に愛情表現をしているようだった。それ以外のやり方を、父は知らなかったんだ」と、ダウニー・Jr.は語っている。

 子役でデビューし、演技学校でも学んだ彼は、80年代になると映画に出演し始める。そんな中で『家族の絆』(1984)で共演したサラ・ジェシカ・パーカーと恋愛関係になったが、彼のドラッグが理由で破局。才能はたしかなもので、『チャーリー』(1992)ではキャリア初のオスカー候補入りを果たすも、アルコールとドラッグに溺れるのは変わらず。1996年にはコカイン、ヘロイン、マリファナの所持で逮捕されることになってしまった。そのために受けた保護観察処分の間にもまたドラッグを使い、その結果裁判所から命じられたドラッグ検査を受けなかったせいで、6ヵ月の刑務所入りを言い渡されてしまう。

 出所後もまた同じ間違いを繰り返し、今度はより長い期間を刑務所で過ごすことに。2000年に釈放され、その数週間後には早くも当時人気だったテレビドラマ『アリー・myラブ』でカリスタ・フロックハート(まだハリソン・フォードの妻になる前だった)演じる主人公の新たな恋のお相手役を獲得するという幸運を得たにもかかわらず、周囲の期待やサポートを裏切り、またもやコカインを使用して警察に逮捕されるはめに。これを受けて、あと8話に出るはずだった『アリー・myラブ』は、彼との契約を解消。出演が決まっていた『アメリカン・スイートハート』(2001)の役も失った。ジュリア・ロバーツ、キャサリン・ゼタ=ジョーンズなど、大物が勢揃いする話題作だ。これを逃すとは、無念だったに違いない。

ロバート・ダウニー・Jrと妻で映画プロデューサーのスーザン・ダウニー (C)AFLO
 しかし、その少し前にカリフォルニアが依存症の人を刑務所ではなく更生施設に入所させるという州法を通していたことで、幸いにもこの時は刑務所入りを逃れられた。そして彼は、今度こそやり直すと決意をしたのである。そんな彼に最も早く手を差し伸べたのは、『エア★アメリカ』(1990)で共演して以来友人になっていたメル・ギブソン。ギブソンのプッシュのおかげで『歌う大捜査線』(2003)でビッグスクリーン復帰を果たした彼は、次に出演した『ゴシカ』(2003)で、現在の妻となるプロデューサーのスーザン・レヴィンと出会う。彼女のサポートもあり、より着実に健康な人生を歩み始めた彼は、やはり彼の才能を信じたジョン・ファヴローの強烈な推しで、マーベル・スタジオのデビュー作品となる『アイアンマン』の主役に抜擢された。そこからはもう誰もが知るところだ。

 ひとつ、人があまり知らないことがあるとすれば、2015年にカリフォルニア州知事から恩赦を受けたことか。恩赦は犯罪歴を取り消すことはしないが、ある種の免許や職業に就くことが許されるようになる。もちろん、今の彼に免許や新たな職業は必要ないが、この意味は間違いなく大きい。

 過去を振り返り、ダウニー・Jr.は、『チャーリー』で賞を逃したのは良かったと述べている。もし受賞していたら、自分の人生はこれで間違っていないと思ったに違いないからだ。今の彼には、賞を受け取る心の準備が十分にできている。アカデミーの投票者にも、その準備は整っているのではないか。3月10日の授賞式が待たれる。

猿渡由紀(L.A.在住映画ジャーナリスト)プロフィール
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「週刊SPA!」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイ、ニューズウィーク日本版などのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

映画『オッペンハイマー』日本版予告編

文:猿渡由紀

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