映画の世界へ誘う力がある 沖縄最後の映画看板絵師「文化守りたい」
喜名さんが講師を務める教室では、喜名さんが「碁盤技法」と呼ぶ独特の技術を指導している。
「見本に碁盤のようにマスを引いて、絵の方もこのマスにそって描いていく。そうすればデッサンが作れる訳です。これをやれば誰にでも描けます。ヨーロッパの壁画なんていうのはみんなこの技法なんです。ミケランジェロや宮廷の画家というのは弟子が何人かいて、まず先生が原画を描いて、それを弟子たちが壁にマスを引いて、拡大して描いていく。見本は小さくても、その比率に合わせて拡大すればいいんです。この技法を使えば100mの大きな絵でも描くことができます」。
碁盤技法を用いれば、未経験者でも短い期間で写真そっくりに描けるようになると喜名さんは言う。だが、ベースとなるこの技法こそ教えるが、そこから先は細かな指導は与えず描く本人に任せる。
「みなさんの絵に私は一つも手を入れません。全部自分でやるから力がつくし、(上達が)早いんです。一枚ができるまで、納得いくまで徹底して描いてもらう。その中で苦しんでやる訳ですが、その苦労が身になるんです。時間が掛かっても、その分自分が習得できるからいい。あとはその人が持っている個性・特徴をどう活かすか。
映画看板が写真と違うのは、写真以上にその人が持っているものが表現されて活きてくる。写真が表現できないものが絵画の中には出てきます。その人の持っている命が映るかどうかだと思います」
現在はお弟子さんとともに描き上げた看板を町や市場に張り出し地域の活性化に協力したり、展示会の開催、イベントの看板制作などを行っている。
「もう1人になってしまったから、やっぱり責任感というか。日本から碁盤技法が消えていくという不安感もありました。この看板を描く技術は自分が先輩から預かったものだから、それを次に伝えてあげたい。どんなに大きくてもこの技法を知っていれば描くことができるんです」。
フィルムからデジタルへ、時代とともに変容を経ながらも映画は残る。映画看板も、その役目と場所を変えながら、いまも変わらず映画の夢と魅力を伝え続ける。(文:しべ超二)
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