“地味”なのに「生涯ベスト」になる人続出! 『夜明けのすべて』松村北斗&上白石萌音が織りなす魅力とは
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映画『夜明けのすべて』場面写真(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
PMSの症状について、誰しも完全には理解できないと前述したが、上白石萌音演じる藤沢さんのPMSによる苛立ちは、なんとなく身に覚えのあるもので、心が苦しくなる。普段なら気にならないところが急に目につく。イライラしすぎて涙が出てくる。言いたくないのに酷い言葉が口をついて出てしまう。そんな姿を見ていてあまりに苦しく、そして上白石の表現力に改めて驚かされた。藤沢さんは確実にそこに“いる”と感じさせられた。
映画『夜明けのすべて』場面写真(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
そして、パニック障害を抱えた山添くん。今働いている小さな会社「栗田科学」での彼は、不愛想でなんか職務態度も悪いし、みんなでの食事も来ない。その真意は、突然発症したらしいパニック障害によって以前働いていた職場を辞することになった悔しさや、歩んできた人生の道を外れてしまったことによる絶望感。そしてなんとなく、もう前の自分には戻れないのではというあきらめを感じている。パニック障害になる前、彼はどんな人間だったのだろう。松村北斗は、病気が山添くんという人間を変えてしまった部分、元々彼が持っていた部分それぞれに思いを馳せさせてくれた。
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で夫婦役を演じた上白石と松村の再びの共演ということで、期待を抱いた人も多いと思う。『夜明けのすべて』での2人は、良い意味で以前の共演を感じさせず、もっと言えば「上白石萌音」「松村北斗」であることすら感じさせない。ただただ、「藤沢さん」「山添くん」として存在していた。2人の表現力があってこそ、本作はここまで輝いたのだということは言うまでもない。
■『夜明けのすべて』から得られる“純度の高い優しさ”
映画『夜明けのすべて』場面写真(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会
「すべて理解することはできない」ということを理解していく2人が、“できる範囲で”支え合う。そんな、あまりにも尊く絶妙な距離感から生み出されるのは、圧倒的で純粋な優しさだ。知ろうとするのも、必要以上に知ろうとしないのも、どちらも優しさだと思う。優しくすることで何かを返してほしいと思うわけでもない。そして藤沢さんと山添くんが優しくあれるのは、2人の周囲にも優しさがあふれているからだ。同僚たちや家族、友人……2人の周りには、2人自身が気づいていないかもしれないものも含めてさまざまな優しさが存在していた。本作の感想やレビューには「優しい気持ちになれた」という言葉がたびたび見られる。これこそが『夜明けのすべて』の魅力なのだと思う。あまりに純粋で美しく、そしてリアルな優しさを、観た者が受け取ることができる。その体験はきっと、誰しも人生の宝物になるだろう。(文:小島萌寧)
映画『夜明けのすべて』はレンタル配信中。