公開までに紆余曲折あった『ノア 約束の舟』 早くもオスカー候補の声

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この春、最も話題を提供した映画は、ダーレン・アロノフスキー監督の『ノア 約束の舟』だ。
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3月28日に北米公開されたこの映画は、現在までに北米だけで8500万ドルを売り上げている。日本の公開は6月だが、すでに公開された各国での受けは良く、北米外からの興収は、これまでに1億6200万ドル。製作費1億2500万ドルの映画としては、間違いなくヒットと言える数字だ。
しかし、ここまでの道は険しかった。アロノフスキーのキャリアで最高規模のこの作品は、ノアの方舟という聖書の物語を扱うため、宗教団体の多くは、神聖なストーリーをハリウッドがめちゃくちゃにするのではないかと、早くから懸念を表明していた。2月には、業界サイト「Variety」が、宗教心の強い観客のほとんどが『ノア』に不満であるとの調査結果を報道。その記事に対し、パラマウントは、調査対象者は『ノア』を見ておらず、また聞かれた質問は「聖書にもとづくハリウッド映画に満足をしているか」という幅広い問いかけだったと反論。また、ニールセンの調査結果では、宗教心の強い観客の83%が「ノア」に興味を示しているとも付け加えた。
その一方で、パラマウントはやはり不安だったようで、アロノフスキーが編集したバージョンとは違う、スタジオが編集したバージョンをテスト上映してみたり(スタジオによるバージョンの受けは決してかんばしくなかったため、結局は監督のバージョンで公開している)、広告に「この映画はノアの物語にインスピレーションを受けたものです。芸術面における解釈は行われていますが、核となる部分は、世界中の人々が信じることに忠実であると信じています」という断り書きをプラスしたりしている。アロノフスキーと主演のラッセル・クロウがイタリア公開前にローマ法王を訪ねたことや、インドネシアなどムスリム(イスラム教徒)の国のいくつかで公開が禁止になったこともニュースになった。
それらの論争があったにも関わらず、映画は北米で1位デビュー。批評家の受けも良く、批評サイト「Rotten Tomatoes」では、全米の77%の批評家が褒めている。オスカー狙いの作品はたいてい年末近くに公開されるのが通例で、3月公開作は対象外と考えられがちだが、『ノア』に関しては、もしかするとオスカーにかかってくるのではという声も、一部から出ている。果たして本当にそうなるのか、これからの展開に注目だ。(文:猿渡由紀)