7本指のピアニスト・西川悟平「“叶う”と言ってくれる人の言葉に耳を傾けて生きてきた」―10.30バースデー公演に込めた想い
“7本指のピアニスト”として世界で活躍する西川悟平が、10月30日に東京・有楽町にあるI’M A SHOWで、バースデーコンサート「Gohei Nishikawa Birthday Concert ~不可能を超えた音~」を開催。ステージでは、東京2020パラリンピック閉会式のグランドフィナーレで演奏した、ルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」や、ザ・ビートルズの「Let It Be」などを披露する。このたび、西川が節目のステージへの思いを語ってくれた。
【写真】バースデーコンサートを開催するピアニスト西川悟平
■「ゼロじゃないんだから、まだ弾ける」―“不可能を超えた”と感じたエピソードとは?
――10月30日にお誕生日を記念したコンサートを開催されます。
バーステーは10月25日なので、バースデーウィークに行うのですが、とても楽しみにしています。ついこの間、50歳を迎えたと思っていたので、時間が過ぎるのはとても早いですね。50歳を過ぎて、人生の分岐点に来ていると思っているので、いいステージにしたいです。
――サブタイトルに「不可能を超えた音」とありますね。
僕が“不可能を超えた音”と言ったわけではなくて、スタッフの方が考えてくださったのですが、このひと言に僕自身のことが集約されているなと思います。うれしいサブタイトルを付けていただきました。
――なぜそのように感じられたのでしょうか。
僕は「絶対に無理」と言われたことが何度もありました。1人だったら頑張ってもできなかっただろうと思うことがいっぱいあるんですけれど、いろんな人との出会いによって、「絶対に無理だ」ということが出来たねって思うんです。その経験を国内外、色んなところで経験させてもらったので、これまでの日々を知るスタッフの方が、それを“不可能を超えた音”と感じてくれているなら、こんなにうれしいことはありません。「ありがとう」って思いました。
――「不可能を超えた」と感じたエピソードにはどのようなものがありますか。
僕は大阪生まれなのですが、小さい時はのんびり屋で“のび太くん”と呼ばれていたんです。小学校5・6年の時、リコーダーの時間があったのですが、楽譜が読めなかった僕は、ボケッと窓の外を眺めていました。先生に見つかると、映画が好きだった僕は、「いつか『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のマイケル・J・フォックスと仲良くなって、ゴーストバスターズの映画に出てくるようなマンションに住むねん」と伝えると、「夢から目を覚ませ」と叱られ、廊下で立たされました。
笛を持って泣いていると、授業を終えた先生がやってきて、「さっきは授業中やったから叱ったけど、持っている夢を叶えろ」と言ってくれました。「先生、どうしたら叶うかな?」と聞いたら「根性や!」と返されたのですが、僕はその夢を叶えることができました。
――夢が叶ったのですか?
はい。僕は24歳の時に渡米し、2001年頃にジストニアを発症しました。当時は、ニューヨークに住んでいたこともあり、現地ある「バックマン&ストラウス ジストニア財団」の会員になっていました。マイケルさんは、パーキンソン病を患っていて、2000年に「マイケル・J・フォックスパーキンソン病リサーチ財団」を設立されました。後にその2つの財団が一緒になり、その時の記念パーティーで会うことができました。その後もチャリティーコンサートをしたり、食事をしたりなど交流がありました。
――凄いご縁ですね。
はい。2017年に公開されたパナソニックのCM撮影のために帰国した時は、帰ってくる飛行機の中で、『ゴーストバスターズ2』の映画を観たんです。その時、緑色のお化けが出てくるシーンがあったんですけど、その場面に自分が住んでいたマンションが映っていたこともありました。その時、先生の言葉が頭に浮かんで、「あ、先生。僕は今、夢の中に住んでるわ!」って思って、空港からすぐに先生に電話をしたんです。でもその時すでに、お亡くなりになっていたので、直接伝えることはできませんでした。
でもその話しをパナソニックの方にしたら、僕の母校でCMの撮影をすることになったんです。撮影の後に、校舎は取り壊されてしまったので、映像の中に遺すことができて良かったです。僕は子供の頃から、「あほか、そんなことあるわけないやん」っていう大人がいる一方で、「いや、叶うんちゃう」って背中を押してくれる大人もたくさんいて、“叶う”って言ってくれる人の言葉に耳を傾けて生きてきました。それが“不可能を超える力”になったのだと周囲の人に感謝しています。
――ピアノとの出合いについても教えてください。
中学3年生の時でした。ショパンの「英雄ポロネーズ」を聴いて、「何て格好いいんだ!」とピアノに魅了されました。そこから火が付いたように練習をして、今では世界の舞台で演奏できるようになりました。
ピアノって趣味で楽しく弾いている分には、何歳で始めてもいいと思うのですが、プロを目指すならば遅くても6歳くらいまでには始めておいた方がいい。僕は15歳で始めましたから、ピアノ1本でやっている人の中では遅い方に入ります。周囲からは「ピアニストになるなんて無理」と言われていましたが、猛練習をして大阪音楽大学短期大学部ピアノ科に入学し、24歳の時にアメリカ・ニューヨークに渡りました。
――先ほどのお話にもありましたが、ジストニアを発症されたのは2001年頃ですね。
はい。5人の医者から「2度とピアノを弾くことはできません」と宣告されました。気持ちは大分落ち込んで、うつ病のような状態になっていました。そんな時に、幼稚園を経営しているアメリカ人の友人から「うちの幼稚園に遊びに来ない?」と誘われたんです。
僕は子どもが大好きで、学校の先生になりたいという夢を持っていたことがあるので、「行く、行く!!」って行くことを決めて、幼稚園に向かうためにシャトルトレイン(ニューヨーク市の地下鉄のこと)に乗ったんです。駅の構内ではストリートバンドが演奏していることもあって、この日もバンドがいました。
その時に聴こえてきたのが、ルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」でした。何て素敵な歌詞、何て素敵な曲なんだろうと心が震えて、その気持ちのまま幼稚園に到着して、園児達の前でわずかに動く5本の指で「きらきら星」を演奏したんです。踊ったり、歌ったり。全身で喜びを伝えてくれる子どもたちを目の当たりにして、「あぁ、演奏できる指が5本しかないと思っていたけれど、ゼロじゃないんだから、まだ弾ける。子どもたちに聴いてほしい」と思い、そこから15年間通いました。
――今回、演奏予定曲の中には、「What a Wonderful World」がラインアップしていますが、そのようなエピソードがあったのですね。
はい。大切にしている曲です。僕は東京でオリンピック、パラリンピックが開催されることが決まった2013年から、「世界中の人が見ている前で、ピアノを演奏したい」と言い続けてきました。閉会式で僕が演奏するイメージを持ち続けていたら、その夢は2022年9月5日に叶えることができたんです。実は閉会式が開かれる年の夏まで、何も決まっていなかったので、依頼をいただいた時は、鳥肌が立つというか全身の毛穴が開くような感覚がありました。
演奏する曲についてはオリンピック組織委員会からの希望で、「What a Wonderful World」でお願いしたいと言われ、僕が「もう生きていくことができない」と落ち込んでいた時に、支えてくれた曲を大舞台で演奏できるのかという不思議な縁を感じました。
――なるほど。大切な楽曲を聴くことができるのはとても楽しみです。他にはどのような曲を演奏されますか。
まだ決定ではないのですが、「きらきら星」や、映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のメインテーマとして流れる「Nuovo Cinema Paradiso」や、大好きなショパンの「ノクターン第2章」などを演奏したいと思っています。ステージと客席との距離が近いと聞いたので、お客様の反応や雰囲気などを感じながら、演奏する順番などは変えて行こうと思っています。曲の間には“泥棒にあった話し”などのトークを挟んで行きますので楽しみにしていただきたいです。
――会場には、西川さんのお誕生日をお祝いしたいと、全国からファンがおとずれると思います。コンサートを楽しみにしている方へメッセージをお願いします。
来てくださったお客様に、温かい気持ちになっていただけるようなステージにしたいです。それ以上の幸せはありません。自宅のリビングで音楽を聴くようにリラックスをして楽しんでいただきたいです。僕のコンサートは「寝ちゃうかもって思って来てみたら、面白かった」って言ってくださる方が多いんですよ。自分で言っちゃいますけど(笑)。なので、気負わずに寝たい人は寝ていただいてもいいですし、ロビーでお酒を販売しているそうなので、飲んで見ていただいても構いません。弾いている時はちょっと静かにしていてほしいですけど。
僕はおこがましいかもしれないけれど、音楽鑑賞をする分母を増やしたいと思って活動をしているので、僕のコンサートをきっかけに、「ピアノっていいな」「この曲いいな」って思ってもらえる人を増やしていきたい。音楽っていいなって感じてくださった方がいたら、今度はオーケストラに行ってみるとか。どんどん広がって行けば嬉しいです。
(取材・文・撮影:西村綾乃)
「Gohei Nishikawa Birthday Concert ~不可能を超えた音~」は、東京・I’M A SHOWにて10月30日開催。
