成河、『巨匠とマルガリータ』は「排除された神秘性、神性があえて書いてある」制作発表会見レポート
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9月、新国立劇場演劇部門の芸術監督に新たに就任した上村聡史。そのシーズンオープニングを飾る作品として上演される『巨匠とマルガリータ』はミハイル・ブルガーコフの同名小説が原作。作者が1928年から1940年までかけて執筆したものの、ソ連当局により体制批判とみなされ、完全版が出版されたのは作者の死後30年以上経った1973年だった。今回はエドワード・ケンプ翻案による戯曲版を、小田島創志の翻訳、上村自身の演出で上演する。
【写真】成河、花乃まりあ、篠井英介ら集結! 『巨匠とマルガリータ』制作発表ショット
制作発表会見には、作品のロゴ入り黒Tシャツを着用したキャスト18名全員と、上村、小田島が出席。上村は、『巨匠とマルガリータ』という作品について、「自分以外の他者がいることの尊さ、自分と他者の間に生まれる想像力、信じる力や愛する力といったものがずっと根底に流れている」と説明。
2024年には新国立劇場中劇場でブルガーコフの『白衛軍』を手がけており、ブルガーコフ作品の魅力について、「21世紀になった今も最も重要な作家の1人だと思っている。白と黒の2つではない、そのあわいにあるものがこの世界、人生にはあふれている、そこを見つめた作家であり、そこを見つめるからこそおもしろさ、生きていく豊かさがあると思う。時間がすごい勢いで進んでいく今の時代、判断、決断を早くしなくちゃいけなくて、一面的なところでジャッジしてしまう部分があるけれども、そうじゃないところに生活や人生がある。舞台芸術を通してそういう豊かさを伝えていきたい、おこがましいかもしれないけれどもブルガーコフの視線を借りてみるというのが、この作品を今の時代に上演する一つのポイントかと思う」と意気込みを語った。
作品が痛烈な批判を受け、精神病院に身を寄せる劇作家、通称「巨匠」を演じるのは成河。「シンプルで力強く、どの瞬間を切り取っても1枚の美しい絵になるような舞台美術、空間が見どころ。原作小説を読み、鋭いアンチテーゼや社会風刺みたいなものの後に突き抜けた荒唐無稽さがあり、そこに批評性がある、そしてエンターテインメント精神のある作家と感じた。そういった開かれた精神みたいなものを失わずに演じられたら」と抱負を述べる。難解なイメージもある作品だが、「社会主義の1つの特徴として反宗教ということ、そしてマルクスの唯物史観、要するに人間の神秘性や精神性をことごとく否定していった。そのアンチテーゼとして、この作品では、唐突な一目惚れだったり悪魔だったり、排除された神秘性、神性みたいなものがあえて書いてあるという前提を抑えてもらえれば」と鑑賞のポイントを語ってくれた。
巨匠を愛し、彼と再び会うために悪魔と取引するマルガリータを演じるのは花乃まりあ。原作と戯曲について「爆笑しながら読んだシーンもたくさんあったけれども、マルガリータの物語として見るととてもシンプルで、愛する人を愛する、信じたい人を信じるというところに行き着く。目に見えるものだけに価値があると思われていた、皆がそう思い込もうとしていた時代に、目に見えないもの、言葉で説明できないもの、人と人同士がひかれ合う見えない引力みたいなものに突き動かされていくマルガリータの姿に女性として勇気をもらえる作品だと感じた」と言う。
モスクワに突如現れる悪魔ヴォランドを演じるのは篠井英介。「見どころは私の悪魔ぶり。やる方も観る方も手強い作品ですが、皆様にも僕たちにも豊かな想像力があるので、それをフルに生かしていただくと大変に面白いものになると思う。この台本はものすごく演劇的で、あっち行ったりこっち行ったり時空を飛んだりいろんなことをしますが、僕たちの想像力とお客様一人一人の中にある豊かな想像力がいろんな世界を生み出してくれる。根本にあるのは人間の変わらぬ思いとか生き様とかさまざまなそういった感情。あまり難しいことを考えないで、感性のままに見ていただくのがいいと思う」とコメント。
悪魔を追ううち狂人とみなされ、精神病院に隔離されてしまう若き作家イワンを演じるのは松島庄汰。「半分ぐらいはブルガーコフの自伝なんじゃないかなと思う、それぐらい、本当に言葉が怖いくらいに心に刺さってくる。読んだ最初の感想は、百年前も何千年前も人間の弱さというのは変わっていないということで、自分も励まされている気持ちにもなった。あとは、開いた口がふさがらないくらい奇想天外なことがいっぱい起きる作品。イワンはお客様の目線に一番近いキャラクターだと思うので、この驚きを新鮮に保ったまま演じて、皆様がこの芝居を見ていく中で何が起こってるんだろうと思ったときは、僕の顔を見ていただけたら、だいたい同じ顔をしていると思う」とユーモアを交えて述べた。
菅原永二が演じるファゴットは篠井演じる悪魔の片腕。「悪魔が悪をやっつける、ダークヒーロー的な立場で登場する、痛快なシーンがある。僕は最初は何だかわからないなという印象だったのが、自分の頭の中で漫画をイメージして、漫画で登場人物がいっぱい出てくるみたいに漫画に置き換えて読んでいった。一週間稽古して、作品がどんどん立ち上がってきた」と述べる。大鷹明良が演じるのはポンティオ・ピラト総督。「今から20世紀も前の人物で、キリストを処刑したことで有名ですが、この作品では人間味のある人物として描かれていて、それがとても魅力があるところ」と語ってくれた。
翻訳の小田島は、「ケンプ版の台本は小説の構成や順序を入れ替え、演劇の醍醐味、演劇でやることの意味をすごく感じる、物語に引き込まれる構成になっている。コミカルな部分もポエティックな部分も豊富に含まれていて、訳していてわくわくする作品。ストーリーの展開がとても早いので、多分、体感時間10分ぐらいであっという間に終わる、おもしろさがつまった舞台になると思います」と作品の魅力を分析。上村によれば上演時間は今のところ3時間前後を予想しているようだが、「展開も目まぐるしく、疾走感がある。前半最初のブロックはラブロマンスかなと思ったら、次のブロックでは悪魔たちがすごくやらかしてきたり。体感時間10分は嘘じゃないです」と作品への期待をかきたてた。
(取材・文:藤本真由)
舞台『巨匠とマルガリータ』は、11月7日~23日東京・新国立劇場 中劇場にて上演。
【公演概要】
『巨匠とマルゲリータ』
11月7日~23日:東京・新国立劇場 中劇場
◆原作
ミハイル・ブルガーコフ
◆翻案
エドワード・ケンプ
◆翻訳
小田島創志
◆演出
上村聡史
◆出演
成河
花乃まりあ
松島庄汰
菅原永二
明星真由美
小松利昌
富山えり子
内田健介
山本圭祐
山森大輔
柴一平
釆澤靖起
近藤隼
猪俣三四郎
篠原初実
笹原翔太
大鷹明良
篠井英介
◆芸術監督
上村聡史
【公式サイト】https://www.nntt.jac.go.jp/play/the-master-and-margarita/