『着飾る恋』第2話キスシーンの魅力を紐解く ポイントは“あざとくない演出”にあり?

カルチャー
2021年4月29日 10:00

■リアルさと奇跡のちょうどいい塩梅

 塚原が演出を務めた第1話と第2話を見たところ、本作の魅力は、“うちキュン”ラブストーリーなだけあり、あくまでも日常を逸脱しない範囲で、胸キュンシーンが登場する点にあるように感じられる。もちろん表参道の一等地にイケメンたちと月5万円でルームシェアする点などドラマならではの非現実要素もある。しかし、基本的には、われわれ視聴者が抱える悩みや問題などを中心に描いていき、そこに少しの奇跡と刺激を加えることで、生活の延長線上にある物語を輝かせるというのが本作のようだ。

 今回のキスシーンも、ごく普通の生活の一部の中で唐突に描かれた。キスをゴールとして用意された絶景や、長年蓄積された想いなどはなく、冷蔵庫を漁るために立ち上がったその先で、ちょっとした勢いから、真柴と駿は唇を重ねることになる。現実世界におけるキスは、映画やドラマほど神聖なものではないのは事実だ。飲みすぎたから、寂しかったから、顔がそこにあったから…特別でないキスの言い訳なんて残念ながらいくらでも思いついてしまう。

真柴&駿 (C)TBS
 大人になれば一度や二度は経験する“やってしまった”瞬間が、生々しいほどのリアリティを含みながら描かれていたのが、本シーンが新鮮なドキドキを生む理由だったろう。唇を重ねた部分をカットしてしまえば、まるで何事もなかったかのように見えるほど、キスの前後で二人が持つタッパーの位置が変わらなかったのも、“やってしまった感”を増幅させていた。視聴者に身構える隙さえ与えぬ間の取り方の上手さと、キスの後の戸惑いの演技の絶妙さは、演出と俳優が一丸となってこのシーンに挑んだことを感じずにはいられない。

 第96回ザテレビジョンドラマアカデミー賞のインタビューで塚原は、国内外のドラマを見ることができる現代の視聴者の目は肥えてきており、「その中で視聴者の皆さんの『こんな設定ありえない』という気持ちが『しらける』に直結するんだなと感じていました」と語っていたことがある。その反面ライブドアニュースのインタビューでは「日本のエンタメの場合、『そんなの嘘くさい』と思われてしまうことに対して、怖がりすぎているところがある」ともコメントしていた。視聴者の心が離れない程度のリアリティと、日常を忘れられる甘い刺激と奇跡。この塩梅が、われわれの心をときめかせる演出の鍵なのかもしれない。

■キスに重なる「不思議」にも注目

 さて、もう1つ忘れてはならないのが、本シーンを彩った星野源による主題歌「不思議」だ。第2話放送日の0時に配信リリースされ、同時に歌詞も公開された本楽曲。第1話放送直後のラジオ番組『星野源のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)では、「不思議」にまつわる歌詞は、先週の段階でドラマ内に登場しなかったことが星野の口から明言されていた。

 そして今回のキスシーンで流れたのが、<幼い頃の記憶/今夜食べたいもの/何もかもが違う/なのになぜ側に居たいの/他人だけにあるもの>という「不思議」にまつわる歌詞の部分であった。第2話放送直後の同ラジオ番組では、この部分は、真柴と駿の正反対の関係性を基にしていることを星野が明かしている。

 「主題歌が良いところでかかるなあ」「今週も主題歌のタイミングが天才でした」と第2話でもTwitterで主題歌とのシンクロ度をかみしめるツイートが散見されたが、それはあらかじめ第1話と第2話で主題歌が流れるタイミングを、なんとなくではあるが聞いた上で作られたというのもあるようだ。主題歌発表の際に「キスにも、涙にも似合う曲が作れたらと思っています」と星野はコメントしていたが、まさにその通りの仕上がりになっていることが今回で証明された。

こうじ (C)TBS
 ちなみに、星野自身、楽曲制作にあたり、台本は数話しか読んでいないため、今後の展開が歌詞の中に隠されているという演出はないとのこと。とはいえ、たとえどんな展開が待ち受けようとも、きっとこの曲が物語と調和していくのは、容易に想像できるだろう。1日が終わりを迎えるタイミングでも日常にすっと溶け込む優しさを持ちながら、ラブソングに似つかわしくない“地獄”や“檻”のようなワードが入った歌詞。その心地いい正反対さも真柴と駿につながっているように見えてしまう。

3ページ(全3ページ中)

この記事の写真を見る

イチオシ!

着飾る恋には理由があって

川口春奈

横浜流星

向井理

山下美月

高橋文哉

丸山隆平

中村アン

夏川結衣

国内ドラマ

カルチャー

あわせて読みたい

[ADVERTISEMENT]

Disney+dアカウント以外の申込<年間プラン>

おすすめフォト

【行きたい】今読まれている記事

【欲しい】今読まれている記事

【イチオシ】今読まれている記事