梶裕貴、不思議と縁ある“猫の役” 20歳の猫又“ぶちお”役は「あまり感じたことのない難しさ」<となりの妖怪さん>
■人も妖怪も同じ 共感できる悩みがある
――ここまでぶちおを演じる上でのお話を伺いましたが、客観的にぶちおを見たときに、どんなところが魅力的だと思いますか?
やはり、人間らしいところですかね。ぶちおには僕と同じく、恥ずかしがり屋で人見知りなところがあるので、すごく共感できるんです。僕はもうアラフォーで、これまで生きてきた中での経験則というものがあるので「じゃあ、どうするべきか?」というのが少なからず思い浮かびますし、いざ仕事となればスイッチを切り替えることもできるようになりましたけど…ぶちおは、まだまだ子どもみたいなものですからね。気持ちがよく分かります。
しかも、猫としての生を全うできた、と思っていたら、なぜか突然猫又になってしまって、そのまま人間として、家族と一緒に暮らしていくことになってしまったわけですから。戸惑うのも当然です。でも、そういった悩みに対して、真っ直ぐに向き合っていこうとする彼の物語だからこそ、きっと誰もが励まされるんだと思いますし、応援したくなるんじゃないかなと。
脱力系カラス天狗のお兄さん、ジロー&むーちゃん(杉本睦実) (C)noho・イースト・プレス/「となりの妖怪さん」製作委員会
――本作ではぶちおをはじめ、本当にさまざまなドラマが描かれていますよね。
ほかの妖怪たちにも、その妖怪ならではの悩みがありつつ、でもそれは、視聴者の方々にも共感できるであろう悩み事ばかりで。僕はぶちおの声を担当させていただいているので、彼の気持ちに焦点をあてて丁寧になぞっていきましたが、きっと皆さんにとっても、「(それが妖怪でも人間でも)自分と近いな」と感じられるキャラクターが一人はいるはず。そういった入口があると、より作品世界に没入しやすくなるかと思うので、ぜひ共感できるキャラクターを探してみてほしいですね。
――そんなドラマあふれる本作で、梶さんが演じていて印象に残っているシーンと、読者として見たときに特に印象に残ったシーンを教えてください。
たくさんあるので挙げ出すとキリがないのですが…まずは、ぶちおが猫又になり、悩み迷いながらも、妖怪の先輩たちと触れあって行く中で、少しずつ自分の存在意義というか、自分の本当の気持ちに気付いていくところ…って、もう全部あらすじを話してしまいそうな勢いです(笑)。
それから冒頭でもお話ししましたが、本作には優しく穏やかな妖怪だけでなく、シリアスな展開を引き起こす、少し恐ろしい妖怪も登場します。そんな中、それまで猫又としての一歩目を踏み出せなかったぶちおが、とある人物を“守るため”に行動を起こすシーンがあるのですが…そこがもう感動的で。原作を読んだときからすごく印象的なエピソードでしたし、アフレコでは「どう演じようかな」とワクワクした部分でもありした。
むーちゃん (C)noho・イースト・プレス/「となりの妖怪さん」製作委員会
――なるほど。
それから、全体的に柔らかい空気をまとう本作でありながら、子どもの頃に父親が行方不明になってしまった女の子・むーちゃん(杉本睦実)の家族ドラマが軸になっている点も印象的ですね。あとは「ワーゲンくん」という自動車のつくも神が登場するのも見どころの一つだと思います。
ワーゲンくんは、車の妖怪ならではの視点の持ち主。そんな彼に、ぶちおも何か通じるところがあるのか、物語が進むにつれ、深い間柄になっていくんです。そんなワーゲンくんにも、家族に対して思うところがあったりして…。この作品には、日本人が古来から持っているであろう価値観や倫理観みたいなものが、丁寧に込められているような気がしていて。至るところに、原作者であるnoho先生の知識や優しさみたいなものがあふれている世界観だなと、僕は感じました。
ぶちお (C)noho・イースト・プレス/「となりの妖怪さん」製作委員会
――ほのぼのしつつも、ピリッとする。アニメならではの『となりの妖怪さん』の世界が今後も楽しみです。最後に少し余談なのですが、梶さんは猫に対してどういう思いを持っていますか?
不思議と猫役を担当させていただく機会が多いこともあってか(笑)、すごくかわいらしいなと思っています。猫の特徴的なイメージでもある、いわゆる“ツンデレ”みたいな部分も愛らしいですよね。でも、そういう意味でいうと…ぶちおにはあまり猫らしさはなくて(笑)。人見知りで、人懐っこくて、どちらかというと犬…? というより、もはや人間らしいキャラクター。人間を演じるときと近い感覚でお芝居しつつも、もともとは猫だったからこその距離感というか、「自分にしかわからないハードルみたいなものがある」という繊細な心の機微を表現をするのは、純粋な動物役をやるときとはまた違う、この作品ならではの難しさであり、面白さだったのかなと感じています。