鈴木達央「僕らの仕事は手軽ですよ」 意外な発言の裏に込められた“声優業”への誇り

インタビュー
2024年5月4日 09:00
鈴木達央「僕らの仕事は手軽ですよ」 意外な発言の裏に込められた“声優業”への誇り
鈴木達央  クランクイン! 写真:上野留加

 Netflixにて独占配信中のアニメ『グリム組曲』。誰もが知るグリム童話に着想を得たアンソロジーで、キャラクター原案を『カードキャプターさくら』(原作)、『コードギアス 反逆のルルーシュ』(キャラクターデザイン原案)で知られるCLAMPが手掛けている。そんな本作で、国中から集めた童話を編さんしている兄弟、ヤコブとヴィルヘルム。2人は末っ子のシャルロッテにその童話を聞かせるが、彼女が想像する物語は少し、怖い。そして、ダークなアレンジが加えられた新解釈のグリム童話となっており、どこかうす暗い人間の本質を描いていく。今回クランクイン!トレンドは、ヤコブ役の鈴木達央にインタビュー。本作の魅力だけではなく、声優・鈴木達央の魅力をひも解いた。(取材・文=ふくだりょうこ/写真=上野留加)


■作品の中に感じられる「ギャップ」

――今回鈴木さんが演じられるヤコブは、物語のガイドとなる役どころです。どのように役作りされたのでしょうか?

みんなが知っているグリム童話と、(本作で)シャルロッテが解釈したグリム童話とでは、あまりにも世界観が違ったので、自分たちがどのように表現したほうがいいのかを考えましたし、ディスカッションを重ねながらやっていきました。

その中で最終的に選んだのは、家族の中の優しさが感じられるもの。彼らが過ごしていた中世の時代の生活の大変さなどをいったん横に置くと、三人でいる時の家族の愛が感じられるのですが、どんな優しい話が始まるのかと思いきや、実はシャルロッテの頭の中はそうではなかったぞ、というギャップがあるんです。そういった世界観の違いを演出していくのは考えながらやっていました。

――グリム童話がベースにある本作ですが、鈴木さんご自身はグリム童話にどのような印象を持たれていますか?

僕らが10代くらいの時に『本当は恐ろしいグリム童話』がはやりました。小さい頃に知っていたグリム童話は、ファンタジックですてきな世界で、かわいくてキラキラしていたんですけど、実は怖い話でもあったんだなと。時代に合わせてマイルドに表現したものを受け取っていたんだということは知っていました。それに、人間の欲のようなものをにじませていて、童話というよりも文学に近い印象があったので、年齢ごとで受ける印象が変わりましたね。

――確かに、『本当は恐ろしいグリム童話』あたりからグリム童話に対する意識が変わりましたもんね。

実は恐ろしい部分もあることが見えたことによって、文学としてのグリム童話の面白さにも触れられたような気がします。今回の『グリム組曲』でも解釈を変える、時代や人種も変えるところはより面白いなと思いましたし、アニメーションじゃないとやりづらいよなと思った印象もあったので、すごく野心的な作品だと感じていました。

(左から)ヴィルヘルム(野島健児)、シャルロッテ(福圓美里)、ヤコブ(鈴木達央)  Netflixシリーズ「グリム組曲」独占配信中
――本作は大人が見てゾッとする、考えさせられる、と感じる部分も多いと思います。“学び”という点に着目するといかがでしょうか?

今回作品を見て思ったのが、アニメーションの世界が好きな人は見たら楽しいだろうなと。WIT STUDIOが作ってきた世界だったり、描こうとしている野心的な試みだったりが随所に盛り込まれていて、そこがすごい。アニメーターに興味がある方や、そうした世界に少しでも思いがある方には良い作品だと思います。音楽に関してもフィルム・スコアリング(映像に合わせて制作する音楽)をしていて、今のWIT STUDIOだからこそトライできる作品だと思いました。

――作品のみならず、その向こう側も少し感じられるような。

そうですね。僕ら声優陣のお芝居に対するアプローチもそうでしたし、音に対してのこだわり方や攻め方だったり、あとはアニメーションで、僕らが話す前奏の部分と本編になってからの色味の変え方、精神世界を表す時の色彩表現だったりを全て変えてきています。それらが面白かったですね。ほかでもあまり見たことがないですし、手法としてはあるけれど、なかなか手を出さないものが見れたように思います。

――そういった作品の手法やグリム童話自体も語り継ぎ、進化していくものかと思います。鈴木さんご自身は、今後に伝えていきたい経験や教訓はありますか?

僕らの仕事自体は、どんどん手軽な仕事になっていると個人的に感じています。皆さんが思うプロと僕らが現場で感じるプロが乖離(かいり)してしまっているので、そういうところが問題点になってくるのかな、と。

僕らはマイク前で何かを残します。その上で、いかに作品に対して良いものを残していくのかが課題にはなってくるので、プロとしての意識はきちんと伝えていかないといけないとは思いますね。


――乖離(かいり)を感じられたのはどういう瞬間だったんですか?

技術であったり、その表現の仕方だったり、ここ20年間で見ると少し層が薄くなったと感じています。僕自身も帯をギュッと締めていかないといけない世界ではありますね。

――手軽になったと言われたのも驚きました。

いや、僕らの仕事は手軽ですよ! 言ってしまえば、どなたでもできます。だからこそ、面白みがあるんですよね。

――その中で、ご自身の中でアップデートしたり、変わったりした部分はありますか?

自分が先輩方によくしていただきながらこの世界を歩いてきたので、そういった職人肌の先輩たちの姿は僕の目に、耳に焼き付いている状態です。どうやったらその人たちのようになれるかを、きっと一生考えていますし、そうしたところからくる初心の重要性は心に置くようにしています。

――それはきっと変わらないところでもありますよね。

そうですね。初心を維持するほうが難しいと思います。

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『グリム組曲』アフレコ小話 ※「鈴木達央」X

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ふくだりょうこ(ライター)

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