岡本信彦「涙があふれてしまいました」 『ヒロアカ』爆豪勝己と歩んだ約10年の軌跡
■『ヒロアカ』の現場は発見の連続
岡本:そうですね。滅茶苦茶うれしい言葉ではありましたが、個人的に難しかったのは疲弊感です。「立っているのもやっと」「戦えているのが不思議なくらい」と言われるレベルで、血も詰まっていて呼吸するたびに激痛が襲う状態のため、「きっと声を張れないはずだ」というところからアフレコが始まりました。自分としては元気いっぱいに、今まで以上に叫び倒したいんだけれどうまくできず、信念だけで声を出す感覚がなかなか大変でした。爆豪の元気さに関しては絵の部分にお任せする形になりつつ、声に関しては「満身創痍ながらも喜ぶ/戦う」状態をイメージしつつ演じていました。もちろんモノローグ部分に関してはダメージ具合が出なくてもいいという考え方もありますが、うまく発声できない面に関しては若干フラストレーションを溜めながら演じていました。ファイナルシーズンの爆豪は、映像表現によってスピード感が桁違いになりました。声は満身創痍ですが、絵のおかげで「爆豪ってすごいんだ」と思っていただけるところに持っていけたら――と考えていました。
爆豪はずっと、自分がオールマイトを終わらせてしまったと後悔し続けています。神野の戦い(第3期)以降、心に針が刺さっている状態で過ごしてきたから、死柄木/AFOとの戦いから復活した時に「死柄木を倒さなきゃ」より先に「オールマイトを救(たす)ける」方に気持ちが向かう。自分を倒した相手へのリベンジマッチではなく、デクの「変速」の力を借りて死にかけているオールマイトを救出する行動が、爆豪のカッコよさだと思います。
――「勝って救ける」タイプだった爆豪が、「救けて勝つ」デクとスイッチする展開でもありますよね。
岡本:そうですね。そのシーンではお芝居でできる範囲が限られているので絵の表現にお任せする形にはなりますが、スピーディな分、さらにカッコよく見えました。どれだけ切羽詰まってオールマイトのもとに向かったのかが絵の方で分かるのは、大きかったです。
岡本信彦
――その後、爆豪がAFO(オール・フォー・ワン)にラッシュを決めるシーンは原作だと痛快でしたが、演じる上では満身創痍状態の表現でご苦労されたのですね。
岡本:音量としては自分の中で7割くらいの感覚でした。アフレコで最初100%で叫んだら「元気になり過ぎじゃないか」という話になり、そりゃそうですよねとなりました(笑)。確かに気合いじゃどうにもならないよなと思い、今までの戦いで追ったダメージを意識しながら演じていきました。今後のイベントなどで披露する機会があれば、“イベント仕様”ということで全力の叫びを出したいと思います。
――ディレクションのお話でいうと、先ほど岡本さんが挙げられた「デクvsかっちゃん2」の収録時には“オールマイトとAFOの戦いをなぞらないように”というお話があったそうですね。
岡本:そうなんです。山下大輝くんとバチバチにやりあったら、そうじゃないとご指摘を受けました。ここはあくまで爆豪のフラストレーションにデクが付き合ってくれているシーンなんだと。「なんで俺はオールマイトを終わらせちまってんだ。教えてくれよデク」という爆豪の「理解できない」という気持ちの高ぶりから始まった戦いであり、だからこそデクからも「サンドバッグになるつもりはないぞ」という言葉が出てくる。ある意味、デクが大人の対応をしてくれているんだ――と言われてハッとさせられました。
『ヒロアカ』の現場は、自分にとって発見の連続です。アニメとしての方向性ももちろんありますが、現場では「なぜ堀越先生はこの言葉を使ったのか、この展開にしたか」を一つひとつ徹底的に突き詰めてひも解いていく“読解する”時間をよく設けているように思います。
――チーム全体のヒロアカ愛が凄まじいですね。堀越先生のこだわりの一つに「登場人物が負った傷を消さず、蓄積していく」がありますが、アニメの現場でもとにかく生々しさを追求されていたんだと改めて感じました。
岡本:少年マンガの枠を超えている感じがありますよね。もちろん友情・努力・勝利は大事にしつつ、その過程にある苦悩や挫折、ストレスを『ヒロアカ』はちゃんと描いていると感じます。夢をつかむためにはここまでしなきゃいけないといった部分まで見せてくれるから、読者はその体現者であるヒーローたちに勇気づけられるのではないでしょうか。僕自身、ヒーローたちが満身創痍ながらも勝つ姿や乗り越える自己犠牲の精神が、見てくださる方々の勇気につながったらいいなと思いながらお芝居をしています。
――爆豪は作品全体を通して変化し続けてきたキャラクターです。ファイナルシーズンでも、オールマイトからアーマーの残骸を渡された際の笑顔など、新たな一面が描かれました。
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