岡本信彦「涙があふれてしまいました」 『ヒロアカ』爆豪勝己と歩んだ約10年の軌跡
■爆轟の笑顔に「涙があふれて」
岡本:我々はアフレコの前にリハーサルビデオという映像をいただいて家でチェックしてから本番に臨みますが、原作を読んでいた時は漠然と「かわいい」「こんな表情を見せるんだ」と読者目線で思っていたのですが、収録時にはこの笑顔を観ていたら涙が出てきてしまいました。爆豪がオールマイトから何かをもらったのは初めてだったので。彼はいつも継承者であるデクのほうに“個性”を譲渡したり言葉を授けていて、爆豪も別に欲しいと思ったことは一度もなかったかと思います。「自分は自分でやってやる」という気持ちが強い人ですし、オールマイトも多分それを分かっているから特別に扱いを変えることはしなかったのだと思うのですが、何ももらってこなかった子があの瞬間、初めて憧れの存在に与えられて「添え木程度にしかならないが」と言われたけれど爆豪にとっては何物にも代えられないくらいうれしい宝物になったんだろうな…と思った瞬間に「良かったね」の気持ちが強くなって、涙があふれてしまいました。
――岡本さんが約10年、爆豪と一緒に歩いてきたからこそこみ上げてきた感情なのでしょうね。
岡本:もしかしたら爆豪を一番近くで見てきたのが僕だと考えるのであれば、自分だからそうした感情になったのかもしれません。演じている時は忘れていますが、チェックしている時はスタンドのように俯瞰で見ているため、他の人にはない感覚で感動を味わえる瞬間が多々あるように思います。オールマイトに対しての言葉だと、「デクvsかっちゃん2」の「俺だって弱ェよ…」が自分にとって衝撃的で、強く印象に残っています。原作では小さなコマでしたが最初に読んだ時は「爆豪がこういうことを言うんだ」と感じました。そこから理解を深めていくなかで、きっと気持ちが高ぶってぽろっと出てしまった言葉であり、オールマイトに分かってほしくて言っちゃった、童心に返った彼の素に近い言葉なのかなと考えるようになりました。
爆豪って実は少年なんだ、子どもらしい部分もしっかりあると思えた出来事でしたが、オールマイトからアーマーを譲渡された時は間違いなく爆豪少年がそこにいた気がしています。そう思えるほど、ピュアな笑顔でした。
岡本信彦
――お話を伺って、岡本さん爆豪と共に歩んできた年月で彼に驚かされることは多かったのではないかと感じました。
岡本:多かったです。最初は悪い奴だと思っていましたから。原作の1巻くらいだと「嫌な人だな、この嫌な部分をどう昇華して芝居しようか」という方向で考えていましたが、巻数やシーズンを重ねていくにつれて全く違う解釈になり、解像度が変わっていきました。滅茶苦茶可哀想なキャラに仕上がっているなと思うようになったんです。彼は自尊心の塊なのに、敵<ヴィラン>連合に拉致されてしまいますよね。これは彼の人生で最悪の汚点だったと思いますし、本人的には死にたいくらい苦しかったはず。負けることが大嫌いなのに、思い返せば爆豪って負けの連続なんです。第5期のB組との合同訓練では完膚なきまでに勝ちますが(第97話「先手必勝!」)、それ以外は意外と勝利していなくて挫折ばっかりで…挙句の果てには死柄木に一度倒されてしまいますし、その直前にはジーニストに「もう大丈夫だ」とまで言われてしまう。本人は聞いていませんが、そう言われてしまうくらいのレベルだということが残酷ですよね。本人は折れずに「自分だったらこうする」「次これが来るぞ」とゲームのコマンド入力のように延々とシミュレーションして“まだ戦える”という気持ちを保っているけれど、ジーニストや読者/視聴者からしたら到底戦える状態じゃないし、勝てるわけないって思われている。僕からすると本当に不憫な子というイメージですし、堀越先生は本当に残酷な名前を付けたなと思います。それでも己に勝たないといけないわけですから。
――その爆豪が、世界人気投票では完膚なきまでの1位を獲得しました。
岡本:僕は正直、デクが獲ると思っていました。どこまでも勇気づけてくれるヒーローですから。しかもなんだかんだでずっと勝っているんですよね。デクが成功体験を続けてきたのに対して爆豪は作中で一番負けまくっているヒーローで、その逆境や不憫さを超え続けようとする姿勢にエモさを感じて応援したいと思っていただけたのかもしれません。
(取材・文:SYO 写真:小川遼)
アニメ『僕のヒーローアカデミア FINAL SEASON』は、読売テレビ・日本テレビ系にて毎週土曜17時30分放送。



















