伊藤沙莉が演じたキャラから考える “今、求められ始めているヒロイン像”
現在出演中の『ミステリと言う勿れ』では、新人刑事の風呂光聖子を演じていて、男性主導の色が濃い組織の中で葛藤しながらも仕事をしている役を演じている。これから終盤に向けて、彼女に焦点があてられることに期待したい。
この原稿依頼をいただいたとき、担当編集者から「これまでも女性が生きている中で直面する問題を多く演じてこられたと思う」ので、そこを書いてほしいと言われおもしろい依頼だなと思った。
その問題に真正面からぶつかっているのが映画『タイトル、拒絶』ではないだろうか。この映画で伊藤はデリヘル店に体験入店をしたものの、その仕事には就かず、今はその店舗でデリヘル嬢たちの世話係として働くカノウを演じた。そこには、要領がよくて楽しそうなマヒルや、トラブルばかりおこしてしまうアツコなど、一筋縄ではいかない面々ばかりが働いていた。
しかし、見ていくと、彼女たちの個々の中になにか原因があるというよりも、そんな風にしてでも生きないといけない、閉塞感や理不尽さがあるのだとわかる。カノウもいつしかやるせなさを爆発させ、そして絶望して泣いたりもするのだが、伊藤沙莉には、思い出の中のちょっと自信がないけど、健気に生きている女の子よりも(それも似合ってしまうのだが)、こっちのほうがしっくりくる。
これまでのヒロインは、どんなことがあっても自分の考え方を変えれば周りもきっと変わってくれると常に完璧な笑顔を見せて健気に生きたりするキャラクターが多すぎた。今、求められ始めたのは、やさぐれたいときにはやさぐれられるような、他人の目を気にしすぎないキャラクターではないか。そればっかりをひとりに求めても申し訳ないが、個人的には、伊藤沙莉にはやっぱり、不満があるときには、それを押し殺さずに、「やってらんねーよ」と思っている表情を隠さずに、舌打ちをするような役をやってもらいたいという気持ちがあるのだ。(文:西森路代)