『火垂るの墓』節子を演じたのは5歳の天才少女 耳に残る名セリフの誕生
放送を間近に控えて、監督・高畑勲の言葉を少し紹介したいと思う。
本作は、戦争によって兄妹が悲劇的な最期を迎えることから、「反戦映画」というイメージが根強い。しかし高畑は、「反戦映画を作ろうとしたわけではない」と語っており、劇場公開から36年、その言葉に改めて目を向けると、見え方が変わってくるかもしれない。
高畑は本作の手書きのシノプシスで、清太について「まるで現代の少年がタイムスリップして、あの不幸な時代にまぎれこんでしまったように思えてならない」とも述べている。裕福な家庭に育ち、戦時下の親戚の家での窮屈な生活に耐えられず、社会との関係を断って2人だけの生活を選んだ清太。人間関係の煩わしさを拒み、傷つくことに脆(もろ)い、精神的に未熟な14歳の清太の姿は、現代の子どもたちとも重なる。
しかし、清太も節子も生きることを諦めていたわけではない。むしろ、一生懸命に、精一杯生きようとした。短い時間の中で、確かに輝いていた命の光を、誰が否定できるだろう。
「こうすればよかった」「ここが間違っていた」と明確な答えを提示する作品もある。しかし、『火垂るの墓』に単純な答えを見つけることは難しい。愚かさと無垢さ、その両方の美しさを描いたこの作品は、戦争映画という枠を超えて、今を生きる私たちの心に深く問いを投げかけてくる。
アニメ映画『火垂るの墓』は、今夜21時より『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて放送。
参考:『スタジオジブリ作品関連資料集II 型録』(徳間書店/1996年)
「アニメージュ1988年3月号」(徳間書店/1988年3月10日発行)