水瀬いのり、チーターに「励まされた気がする」 ネコ科動物から受け取った命の強さと温かさ
――ツノミンを演じるときと、ナレーターとして語るときでは、声を届ける際の心境やアプローチにどのような違いがありましたか?
水瀬:ツノミンとして話すシーンは、まったく緊張せず、純粋に演じることが楽しかったです。ツノミンとして言葉を届けられること自体に、喜びを感じていました。
一方で、ナレーションにはすごく緊張しました。自分の声がナレーションに向いているのか、今の私にはまだ自信を持って「向いています」と言い切れない部分もあって。私の声が、皆さんが生きものたちの生態を見つめるうえで、邪魔になってしまわないだろうかという不安もありました。
だからこそ、なるべく映像のノイズにならず、皆さんが生きものたちの世界へ入っていくお手伝いを、自分の声と語りでできたらと意識しました。自分らしさは残しながらも、“ナレーションをする人”という一つの人格を作り、その声を通して語りかけるような感覚で臨んだ収録でした。
――ナレーターとして前に出るのではなく、“裏方”に徹することを大切にされているのですね。
水瀬:そうですね。『ダーウィンが来た!』は、今回の劇場版に限らず、あくまで生きものたちが主役の映像作品です。ナレーションは、生きものたちが何を伝えようとしているのか、その瞬間に何が起きているのかを、必要なところで補うためにあるのだと思います。
極端に言えば、補足が必要なければ、ずっと黙っていることもできる。だからこそ、語りの役割は、映像だけでは伝わりにくい部分をそっと補い、観客の皆さんが生きものたちの世界へ入っていくのを支えることにあるのだと感じました。あくまで彼らを補佐する立場として、目立ちすぎないことを心がけました。

――生きものたちに寄り添ううえで、どのような距離感を意識しましたか?
水瀬:常に、彼らが見ている景色を一緒に見ているような気持ちでいました。ただ、その一方で、“天の声”として少し俯瞰した立場から見守ることも意識していました。
映像には、ドローンで撮影したような広大な景色もあれば、「一体どこから、どうやって撮ったんだろう」と驚くほど、生きもののすぐそばまで迫った場面もあります。まるで彼らと同じ目線に立っているような画角や、足元からその姿を見上げているような画角もあって、映像によって観客の視点は大きく変わっていくんです。
だからこそ、ナレーションまで生きものたちに近づきすぎるのではなく、同じ景色を見ながらも、少し離れた場所から静かに見守る。その距離感を大切にしていました。
――思わず声を上げたくなるような場面もありますが、ドキュメンタリーとして語るうえで、感情の表し方はどのように考えましたか?
水瀬:初めてご覧になる皆さんにとっては、動物たちの意外な一面や、衝撃を受けるような光景もたくさんあると思います。私自身も、映像を見ながら驚く場面が何度もありました。
ただ、ナレーションでは、そのたびに「わあ!」と反応するのではなく、静かに寄り添うことを意識しました。長い時間をかけて生きものたちを見守り、追い続けてきたカメラクルーの皆さんは、そうした出来事も含めて、彼らの営みとして受け止めてきたのだと思うんです。
動物を扱うバラエティー番組であれば、視聴者の皆さんと同じ目線に立ち、一緒に驚いたり、共感したりする語り方もあると思います。でも今回は、厳しい自然の中で生きる動物たちを捉えたドキュメンタリーです。だからこそ、感情を必要以上に大きく表現するのではなく、目の前で起きていることを静かに見守るように、しっとりと語ることを心がけました。
――経験を重ねた今回、理想とするナレーションに変化はありましたか?
水瀬:私自身、ナレーションの経験はまだ十分とは言えないので、今回の収録でもたくさんの学びがありました。中でも改めて難しいと感じたのは、長い文章の中で何を伝えたいのかを捉え、その言葉をいかに自然に際立たせるかということです。
伝えたい部分だからといって、強く節をつければいいわけではないんですよね。あまりに強調すると、「今、強調したな」と伝わってしまって、かえって言葉が悪目立ちしてしまう。意識せずとも自然に耳へ入ってきて、心地よく聞けるのに、本当に伝えたいことはきちんと胸に残る。そんな語りを目指したいと思いましたし、ナレーションは本当に奥深くて難しいものだと、改めて実感しました。
今回は長尺のナレーションを担当させていただいたこともあり、収録が進むにつれて、少しずつ自分の中で語りがなじんでいく感覚もありました。終盤になって「この感覚で最初から臨めたらよかったのに」と思う部分もあって、そこには少し悔しさも残っています。
それでも、今の自分にできる限りのことを込めて、一言一言大切に語らせていただきました。今回得たものを、また次の機会につなげていけたらと思いますし、まずは皆さんに作品を楽しんでいただけたらうれしいです。
『劇場版ダーウィンが来た!世界のネコのなかまたち』場面写真(C)劇場版ダーウィンが来た!世界のネコのなかまたち 製作委員会
