『永遠のジャンゴ』監督、天才ギタリストの生き様を通しロマ民族の暗黒時代に迫る
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劇中、ナチスの衛兵に向かって、「俺は音楽を知らない、音楽が俺を知っている」と言い放つシーンがあるが、まさにジャンゴの中にあるミュージシャン魂を象徴している言葉だ。「実際は、音楽の基礎知識がなかったジャンゴに対して、ジャーナリストが“音楽をわかっていますか?”と聞いたことに対しての答えだったのですが、それを映画の重要なシーンで引用させていただいた。“俺は音楽と一体化している”“俺は音楽があるから生き続けられる”ということを強調したかった」。
迫り来る危機に対して、当初、ジャンゴは目を背け、音楽だけに没頭しようとするが、厳しい現実を目の当たりにした彼は、やがて大きな成長を遂げていく。「ロマ民族の言葉で、“ジャンゴ”は“目覚める”という意味を持ちますが、天才アーティストらしく、気まぐれで自己中心的だったジャンゴは、戦争の残酷さを肌で感じ、新たな感情に目覚めていく。映画的な筋書きからすると、そこがとてもドラマチックで見応えがある」とコマール監督は、作品としての自信ものぞかせる。
激動の時代の中で、映画は驚きのクライマックスへと向かっていくが、ジャンゴを演じたレダの神がかり的な演技なくして、この作品は成立しなかっただろう。とくに、ライブシーンは“本物”としか言いようのないくらい臨場感に満ちている。「レダには1年間、ギターを猛特訓してもらった。音は出せなくてもいいから、劇中で演奏する曲の指の動きは、完璧にマスターしてくれと。表情も音楽と直結してなければならなかったが、彼は本当に素晴らしかったよ。全ての動きと音楽を合わせる作業は、とてもチャレンジングだった」。
クラーク・ゲーブルが大好きだったというジャンゴへの敬愛を込めて、名作『或る夜の出来事』のワンシーンを使った粋な演出も観られる本作。戦争の厳しさと同時に、それでも音楽は“大切な心の支えである”ことをジャンゴが改めて教えてくれる。(取材・文・写真:坂田正樹)
映画『永遠のジャンゴ』は11月25日より公開。