真木よう子が“重要シーン”の撮り直しに燃えた『焼肉ドラゴン』
最初に舞台のDVDを見て、真木よう子は衝撃を受けたという。「とにかく面白かったです。こんな舞台があったのかと。何より脚本が素晴らしいなと思いました」。その作品の名は『焼肉ドラゴン』。2008年に鄭義信の作・演出で日韓で上演され、センセーションを巻き起こした。この伝説の舞台を鄭自身が監督を務めて日韓キャストで映画化する。この難易度「高」のミッションへのオファーに、真木は燃えた。
【写真】真木よう子インタビュー写真
「正直、最初はこの舞台がどういう映像になるのかイメージがわきませんでした。でも不安よりも、どうせ作るなら、舞台を見た人に『舞台の方が面白かった』とは言わせたくない。映像ならではの面白さを出したい! という気持ちでした」。
物語は万博の開催を控えた高度経済成長期の関西を舞台に、時代の波に翻弄されつつも力強く生きる在日韓国人の一家の姿を描き出す。真木が演じたのが、戦争で左腕を失った父と、彼と再婚し日本へやってきた母、三姉妹と、父母の間に生まれた末の弟の6人家族の長女・静花。真木は、静花のキャラクターについて「長女という立場もあって、妹たちと違ってそこまで自分が前に出ようとしないで、家族を客観的に見ようとしている子です」と語る。
静花の妹の梨花(井上真央)は、静花の幼なじみの哲男(大泉洋)と結婚しているが、彼は静花への思いを密かに抱えており、静花も、そして梨花もそれに気づいている。在日韓国人と彼らが抱える歴史的な背景といった部分に目が行きがちだが、こうした感情の絡み合いや、複雑な関係性をベースにした人間ドラマこそ本作の魅力であり、まぎれもなくエンターテインメント作品である。
例えば、シリアスなシーンや感情を揺さぶる重要なシーンでもまるでコントのような笑いが挿入されるが、これも鄭監督の意図だ。「鄭監督がずっと言っていたのは、『国籍の違い』もテーマの一つにありますが、どこの国だろうと家族の間には葛藤もあるし、ぶつかり合うときもある。それでも家族の絆というものは、そう簡単に崩れるものじゃない。明日に向かって前進していく人たちの、家族の絆を描きたい。その中にも面白おかしいジョークやボケをどんどん入れていく! ということ。そこは義信さんのセンスだなと思います」。
鄭監督は、舞台の世界では厳しく、粘着質な演出家として知られているが、今回の現場で真木がそうした演出を受けることはなかったそうで「後から、舞台での鄭監督の演出を聞いて驚きました」と明かす。
それでも、そんな彼の妥協なき演出家としての一面が垣間見えた瞬間があったという。終盤、国有地に暮らす一家の元に、土地の引き渡しを求める役所の人間がやってきて、これまで時代や国家に翻弄され、さまざまなものを奪われ続けてきた父がついに感情を爆発させるシーン。鄭監督はほぼ1日がかりで撮影されたそのシーンを翌日、もう一度撮り直すことを決断。それを伝えた鄭監督に、真木はすぐに握手を求めに駆け寄ったという。