『エルピス』最終回 “浅川”長澤まさみと“斎藤”鈴木亮平の握手の意味と残された“希望”
■ 交わされた浅川と斎藤の握手の意味
ゲリラ的なスクープ報道を決意して「NEWS8」のスタジオに入った浅川の前に、斎藤が現れる。身じろぎできぬ緊迫感が支配する。そしてついに、斎藤の胸の内が明らかになった。「俺が案じているのはこの国の行く末だ。君が案じているのと同じ、この国の人々のことだ。時間がほしい。俺にしかるべき力がついたときには、今日君が言ったこと(すでに病気の社会を治療する術を見つけること)に必ず応えてみせる」。これは浅川を止めるためだけの方便ではなく、彼の本心のように感じられた。だが覚醒した浅川は譲らない。また、彼女の“知らせないというカードを切っている人”という言葉は、現実世界の報道に投げた強いものであった。
レイプ事件もみ消し疑惑を報道しない条件として、「本城彰の逮捕」を求めた浅川の要求を斎藤が飲んだ。強いカードがあっての状況ではあるが、浅川は、斎藤とも対等に立ってみせると決意を示した。そして交わされた浅川と斎藤の握手。2人はまぎれもない相克の関係であるとともに、ベースにはきっと信頼がある。テレビ局からの帰り、岸本の姿を捉えた斎藤がほんのわずかながらその瞳に笑みを宿らせたことが、彼らを認めていると教えていた。
死刑囚・松本良夫(片岡正二郎)のえん罪は晴れた。交換条件としての解決に、「妥協では?」とモヤモヤが残る人もいるかもしれない。しかし、すべてを一気に解決などできない。浅川は、諦めることなく、ひとつひとつ向き合っていくことを決めた。そのためにもまずは松本のえん罪を晴らすことが重要だったのだ。
「この世に本当に正しいことなんて、本当はないんだよ。正しいことをするのは諦めて、代わりに夢を見ることにしようよ」と言う浅川。だが、誰もが簡単に夢を見られるわけではなく、岸本の「どんな夢を見ればいいのかが、僕にはまだ分からない」というモノローグに救われる。パンドラの箱を開けた先に残る「希望」は、“人を信じられること”が生み出す光だったが、それ自体がまた難しい。でも、私たちの生きる毎日と地続きだと感じさせた本作は、まずは顔を上げようと伝えてくれた。(文:望月ふみ)