クランクイン!

  • クラインイン!トレンド

ヴィム・ヴェンダースの東京への思いがにじみ出る 役所広司主演『PERFECT DAYS』で同じ朝を迎えることができる幸せを実感

映画

映画『PERFECT DAYS』場面写真
映画『PERFECT DAYS』場面写真(C)2023 MASTER MIND Ltd.

関連 :

ヴィム・ヴェンダース

役所広司

 日本にゆかりの深いドイツの名匠ヴィム・ヴェンダース監督が、役所広司を主演に迎えてメガホンをとった映画『PERFECT DAYS』。寡黙な主人公の雄弁な眼差し、昭和の面影が色濃く残る東京のスポットにひかれ、そして、次の日もまた同じ日を迎えることができるありがたさを改めて感じた。

【動画】役所広司が日々の暮らしに優しく誠実に向き合う男を好演 『PERFECT DAYS』本予告

 東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、押上の古いアパートで一人暮らしている。夜が明ける前に近所の高齢女性が掃除する竹ぼうきの音が響くと目を覚ます。そして歯を磨き、髭を整え、清掃のユニフォームに身をつつむ。車のキーと小銭とガラケーをいつものようにポケットにしまい部屋をでて、手作りの掃除道具をぎっしり積んだ青い軽に乗って仕事に向かう。

 いくつもの風変わりなトイレを掃除してまわる。掃除を終えると夕方にはアパートに戻る。自転車に乗り換えて銭湯へ行き、いつもの地下の居酒屋でいつものメニューを頼み、そして寝落ちするまで本を読む。そしてまた、竹ぼうきの音で目を覚ます。そんな彼の日々にある日、思いがけない出来事がおきる…。

 主人公の平山は寡黙な男。毎日まるで修行僧のように、黙々とトイレの清掃を完璧に手際よくこなしていく。ほぼルーティーン化しているその暮らしぶりは、一見世間から距離を置いているように見える。しかし平山は、人間嫌いだったり、孤独を愛しているわけではない。むしろその逆だ。さまざまな他者とのやりとりや行動から、やがて彼が知的で愛情深い人間であること、その平坦ではない人生が浮かび上がってくる。

 平山は、身内・他人に関係なく他者に平等に優しい。いいかげんな勤務態度の若い同僚男性に振り回され困惑しながらも、その男性の窮地には手を差し伸べる。清掃先のトイレで迷子の子どもを保護し母親に引き渡した際、母親がすぐさま子供の手を除菌シートで拭くのを見て一瞬硬い表情になるが、最後まで子どもに温かく接する。その優しさはいつもさりげなくて、一定の距離をとっていてベタベタしない。

ヴィム・ヴェンダース 『PERFECT DAYS』メイキング写真 (C)2023 MASTER MIND Ltd.
 そんな平山のほかに、東京の新旧が混在した風景、そこで働き、暮らす人々にも、ヴェンダース監督はフォーカスする。平山が暮らすアパート、彼の行きつけである銭湯、コインランドリー、居酒屋、古本屋、写真屋…どの場所も、昭和の面影が色濃く残っていて、郷愁をそそられる。平山のような独り身でも、自立していれば過度に詮索されることなく、マイペースで生きていける場所。

 小津安二郎監督を敬愛するヴェンダース監督は、かつて小津監督へのオマージュを込めたドキュメンタリー映画『東京画』(1985)で、当時の東京のさまざまな風景や人々を独自の視点で、時にシニカルに切り取った。ちなみに、役所演じる主人公の平山という名字は、小津監督の名作『東京物語』(1953)に登場する主人公の老夫婦の名前。

 ヴェンダース監督は、『PERFECT DAYS』を監督するにあたり、主人公の暮らすアパート、銭湯、コインランドリー、休日に通う店、すべてのロケ地を歩いて探しまわり、主人公の行動範囲のなかでそれらを選んだ。映像には、そんな監督の東京への思い入れがにじみ出ている。『東京画』に登場する食品サンプル工場の従業員や、パチンコ屋の釘師が黙々と自身の仕事に取り組む姿は、どこか仕事中の平山と重なる。

 平山の一日のルーティーンが繰り返し映し出される本作。近所の女性が竹ぼうきで道を掃く音で彼の一日が始まるたび、なぜかこの平和な世界とは対照的な現在の世界情勢が脳裏に浮かび、次の日も同じ朝を迎えることができる幸せを改めて感じた。朝起きて仕事をして、終わったら行きつけの銭湯や飲み屋に行って、寝る前に自分で買った本を読む。時折木漏れ日を見つめる。そんな暮らしができる国であり続けて欲しい。(文・古川祐子)

 映画『PERFECT DAYS』は、12月22日より公開中。

映画『PERFECT DAYS』本予告映像

この記事の写真を見る

関連記事

あわせて読みたい


最新ニュース

  • [ADVERTISEMENT]

    Hulu | Disney+ セットプラン
  • [ADVERTISEMENT]

トップへ戻る