ロサンゼルス山火事から1ヵ月半…映画業界にあたえた多大な影響とは<ハリウッド最前線>

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米ロサンゼルスを拠点に様々なメディアで活動している映画ジャーナリスト・猿渡由紀さんがさまざまな視点でハリウッド情報をお届けする「ハリウッド最前線コラム」。今回は、今年1月にロサンゼルスで発生し、甚大な被害をもらたした山火事が映画業界にあたえた影響について詳しく伝えてもらう。
【フォト集】ファッションには影響なし? CCAレッドカーペットの様子
■ハリウッドのイベントは次々と延期に…
ロサンゼルスで大規模な複数の山火事が発生して、約1ヵ月半。今もなお避難生活を強いられている人は少なくなく、地元政府や非営利団体は、日々、被害者の救済のために精力的な活動をしている。
(左から)コスモ・ジャーヴィス、アンナ・サワイ、真田広之、浅野忠信(2025年撮影) (C)AFLO
業界関係者の多くが直接の被害を受けたこの未曾有の悲劇を受け、ハリウッドでも多くのイベントが延期されたり、変更されたりした。火事が発生した数日後に予定されていた放送映画批評家協会賞(Critics Choice Awards/CCA)は、日程を2度延期。最終的には今月9日に実施されたが、レッドカーペットの生中継は中止(レッドカーペットそのものはあった)。普段は「ブラックタイ(男性はタキシード)」であるドレスコードも「カクテルアタイア」と緩めになっている。特別の服を用意するような余裕のない参加者を配慮してのこと(しかし、結果的には、多くのセレブは毎年と変わらない、ドレスアップした格好でやってきていた)。授賞式には消防隊員を招待し、一番前の特等席で楽しんでもらっている。
レディー・ガガ(2024年撮影) (C)AFLO
消防隊員は、その5日前に行われたグラミー賞授賞式にも出席し、多くの拍手と感謝の言葉を浴びた。今年はロサンゼルスから遠く離れたニューオリンズで行われたスーパーボウルでも、フレンチクォーターの真ん中にピアノを据え、レディ・ガガが「Hold My Hand」を歌い、ロサンゼルスの山火事にかぎらず、最近アメリカで起きた悲劇の影響を受けた人たちに、強いメッセージを送っている。ガガの前に立っていたトム・ブレイディが着ていたのは、ロサンゼルス消防署のロゴが入ったTシャツだ。
毎年1月上旬にロサンゼルスで行われる英国アカデミー賞のティーパーティ、ハリウッド映画のプレミアなど、中止になったイベントもいくつか。アカデミー賞、プロデューサー組合賞、脚本家組合賞などのノミネーション発表は、延期になった。投票者の多くがロサンゼルスに住んでおり、それどころではない人はいたはずだ。
アカデミー賞に先立って行われる、恒例の候補者のためのランチョンは、キャンセルに。これは候補入りした人たちにとってがっかりだっただろう。その部門で誰かひとりだけが勝ち、残りの人たちは負ける授賞式と違い、このランチョンは候補入りしたことをみんなで一緒に祝福する、「みんなが勝つ」イベント。昔から憧れてきた人に間近で会っておしゃべりできる最高のチャンスでもある。全員で撮影する記念写真も人生で最高のお宝になるはずだが、今年はその機会が失われてしまった。
一方、火事発生から2ヵ月先の3月2日に予定されていたアカデミー賞授賞式の日程は、変更がないまま。ただし、歌曲部門に候補入りした歌のパフォーマンスは行われないことが、早々と発表されている。毎年授賞式を華やかにするのが音楽パフォーマンスで、昨年はライアン・ゴズリングの「I’m Just Ken」のパフォーマンスが大絶賛を受けたところだけに残念。その後、この部門に候補入りしていない『ウィキッド ふたりの魔女』の歌のライブパフォーマンスがあるとの報道が出て、アカデミーの意図に対する疑問と混乱が起きたが、主演のシンシア・エリヴォはただの噂だと否定している。
当日、アカデミー賞授賞式では、復興のための努力や消防隊員への感謝への言及が必ずあるだろう。しかし、CCAを見ても、セレブが選ぶファッションには、それほど大きな影響はないのではないかと思われる。実際、目の前で起きたばかりの災害を忘れることはできなくても、前を向き、日常に戻ろうとしている人たちはいるのだ。現地時間16日にニューヨークで行われた『サタデー・ナイト・ライブ』50周年記念特別番組の生中継にも、山火事で家を失ったビリー・クリスタル、マイルズ・テラーの姿があった。彼らは観客席で楽しんでいただけでなく、ライブでのコメディ寸劇にも出演し、会場と視聴者を笑わせてくれている。
彼らの笑顔を見られたのは、ファンにとっても嬉しい出来事だった。そんな彼らの精神に大きな声援を送りつつ、1日も早くこれまでの生活を取り戻せることを願いたい。
猿渡由紀(L.A.在住映画ジャーナリスト)プロフィール
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「週刊SPA!」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイ、ニューズウィーク日本版などのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。
文:猿渡由紀