アカデミー賞候補作品に投資した意外な救世主 厳しい資金集めの現状を反映

第86回アカデミー賞授賞式が、いよいよ目前に迫った。最も興行成績を稼ぐのは、スーパーヒーロー物やアクション映画など大手スタジオが手がける娯楽大作だが、毎年のことながら、オスカーで大活躍するのは、シリアスで芸術的なストーリーを語る、低予算のインディーズ映画である。
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莫大な興行成績が見込めないこれらの小粒な作品をスタジオがますます敬遠する中、これらの秀作は、思いもかけない職種の人たちのおかげで実現することが増えてきている。
たとえば、『ダラス・バイヤーズクラブ』には、肥料ビジネスで巨額の富を手にしたテキサスの企業家ジョー・ニューコームがお金を出した。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』はパラマウント作品と思われがちだが、パラマウントが担当したのは配給だけで、1億ドルの製作費はすべて、マレーシア首相ナジブ・ラザクの義理の息子リザ・アジズと、ケンタッキー州出身でエンターテイメント業界とは無関係だった男性ジョーイ・マクファーランドが新しく設立した製作会社が出している。
『それでも夜は明ける』に投資したウィリアム・ポーラドは、メジャーリーグ、ミネソタ・ツインズの元オーナー。『アメリカン・ハッスル』と『her/世界でひとつの彼女』に投資したメーガン・エリソンは、シリコンバレーの大物でオラクルの創始者ローレンス・エリソンの娘だ。
昨年も、作品部門、主演女優部門などで候補に挙がった『ゼロ・ダーク・サーティ』の製作費もエリソンが出しているし、eBayの創始者ジェフ・スコールは、製作会社パーティシパント・メディアを立ち上げ、早くから『グッドナイト&グッドラック』『シリアナ』など、政治的、社会的なメッセージをもつオスカー候補作を実現させてきた。
長引く不況や大手スタジオの大作志向で、より資金集めが厳しくなる中、インディーズ映画のフィルムメーカーたちは、ますます他業種の成功者たちの懐に目を向けている。ハリウッドスターに会えたり、レッドカーペットのイベントに出席できるのは、彼らにとっても魅力的な話。だが、映画への投資はリスクが大きく、大金が泡のように消えてしまう可能性も非常に大きい。オスカーに候補入りすれば、興行成績にもその後のDVD売り上げにもはずみがつき、見返りのある投資だったということになるが、そこに至る映画はごくひとにぎり。投資家たちは、覚悟が必要だ。(文:猿渡由紀)